上手い写真と仕事になる写真の違いは、評価が「写真の中」で完結するか、「写真の外」で決まるかです。上手い写真は、構図や光、表情の完成度で見た人を納得させます。仕事になる写真は、採用サイトや営業資料など企業が決めた場所に置かれ、決めた相手に理解や行動を起こしたときに初めて価値が決まります。企業が撮影にお金を払うのは、後者のためです。
結論|上手い写真は「写真の中」で完結し、仕事になる写真は「写真の外」で評価が決まる
WHAT MAKES A PHOTO WORK

企業の撮影を発注すると、納品された写真を見て「上手いけれど、使いにくい」と感じることがあります。1枚ずつ見ればきれいなのに、採用サイトに並べると会社の雰囲気が伝わらない。営業資料に入れると文字を載せる場所がない。プレスリリースに添えると、何の発表の写真なのか分からない。写真の出来が悪いわけではないので、どこに不満があるのかを社内で説明しにくい状態です。
私は元カメラマンで、いまは企業専門のカメラマン手配として、撮影者を審査してアサインする仕事をしています。撮る側と選ぶ側の両方に立ってきて、発注企業の不満の多くは、この「上手い」と「仕事になる」の取り違えから生まれていると考えています。撮影者は上手い写真を目指して撮り、発注企業は仕事になる写真を期待して待っている。同じ「良い写真」という言葉を使いながら、見ている場所が違うのです。
この記事では、その2つの違いを言葉にします。上手い写真とは何か、仕事になる写真とは何か、用途ごとにどこでずれるのか、そして仕事になる写真はどこで決まるのか。撮影者を選ぶ手順や現場の作法ではなく、その手前にある「企業にとって写真の価値とは何か」という定義の話です。
この記事の位置づけ|審査の手順ではなく、写真の価値の定義を書く
撮影者の見極め方については、ほかの記事で具体的な手順を書いています。審査で何を見ているかの全体像はカメラマンを審査する4つの基準|人柄・機材・実績・ポートフォリオに、作品の見栄えと現場での力がずれる理由はポートフォリオが良いのに現場で失敗するカメラマンの特徴に、作品集を読むときの注意は元カメラマンだから分かる、ポートフォリオの嘘の見抜き方|ベストカットの裏側を読む技術にまとめました。
この記事は、それらの手前にある考え方を扱います。そもそも企業撮影で「良い写真」とは何を指すのか。その定義が発注企業と撮影者でずれていると、どれだけ丁寧に人を選んでも、納品物への不満は残ります。審査のチェック項目や当日の振る舞いには踏み込まず、必要なところで各記事に渡します。
| 記事 | 答えている問い | 抽象度 |
|---|---|---|
| カメラマンを審査する4つの基準 | 何を基準に撮影者を審査しているか | 総論。人柄・機材・実績・ポートフォリオの全体像 |
| ポートフォリオが良いのに現場で失敗するカメラマンの特徴 | 作品は良いのに、なぜ現場で失敗するのか | 現場力。進行・時間管理・声かけ |
| ポートフォリオの嘘の見抜き方 | 作品集をどう読めば実力が分かるか | 読み解きの技術。撮影条件と1案件のセット |
| この記事 | 上手い写真と仕事になる写真は、何が違うのか | 定義。企業にとって写真の価値が決まる場所 |
上手い写真と仕事になる写真の定義
上手い写真とは、構図、光、ピント、色、瞬間のとらえ方といった写真の中の要素の完成度が高く、見た人が1枚として「良い写真だ」と感じる写真のことです。評価の基準は写真そのものにあり、どこに置かれるかとは関係なく成り立ちます。
仕事になる写真とは、企業が決めた用途の場所に置かれたとき、決めた相手に、決めた理解や行動を起こし、しかも使える形で手元に残っている写真のことです。評価の基準は写真の外、つまり置かれる場所と、それを見る人の頭の中にあります。
| 観点 | 上手い写真 | 仕事になる写真 |
|---|---|---|
| 評価する人 | 写真を見る人全般。撮影者どうし、講評する人 | 写真の先にいる相手。応募者、取引先、記者、顧客 |
| 評価が決まる場所 | 写真の中。構図、光、表情の完成度 | 写真の外。置かれた媒体と、見た人の理解や行動 |
| 単位 | 1枚 | 用途に必要なカットの組 |
| 良し悪しの基準 | 美しさ、印象の強さ、技術の高さ | 伝えたい事実が正しく伝わるか、使う形で揃っているか |
| 時間の長さ | 見た瞬間に評価が決まる | 掲載されている期間ずっと働く。差し替えまで使い続ける |
| 失敗の意味 | 写真として物足りない | 用途に使えない、または誤った印象を与える |
表の右側の列は、左側を否定しているわけではありません。仕事になる写真の多くは、上手い写真でもあります。ただ、上手い写真がすべて仕事になるわけではない。この非対称が、この記事の出発点です。
「上手い写真」とは何か|写真の中で評価が完結する完成度
上手い写真の価値は、写真の中の要素だけで説明できます。光がきれいに回っている、背景が整理されている、表情が自然、ピントが合うべき場所に合っている、色が正しい。こうした要素は、写真をどこに置いても変わりません。だから上手さは、作品集や撮影者どうしの評価の場で比べやすく、言葉にもしやすいのです。
上手さは、企業撮影でも欠かせない土台
企業撮影でも、上手さは欠かせません。暗くて顔が沈んだ社員写真、ブレた登壇写真、色がずれた商品写真は、どれだけ用途に合った構図でも使えません。上手さは、写真が仕事をするための最低条件です。この記事で上手さを疑っているように読めるかもしれませんが、上手さが足りない撮影者を、私たちが企業の現場にアサインすることはありません。
問題は、上手さが「十分条件」として扱われるときです。上手い写真が撮れる人なら、企業の用途にも合う写真が撮れるはずだ、という期待です。私の実感では、この期待は半分しか当たりません。上手さは写真の高さを決めますが、写真がどちらを向いているかまでは決めないからです。
撮る側は、上手さを目指すように育つ
撮影者が上手さを目指すのは、自然なことです。写真を学ぶ場でも、作品を講評し合う場でも、評価の言葉のほとんどは写真の中に向きます。光の読み方、構図の組み立て、瞬間の選び方。撮影者として力をつけるほど、写真の中の完成度で自分を測るようになります。
私自身、写真学科で写真を学び、実家の写真館を継いでからも、長いあいだ上手さの物差しで写真を見ていました。うまくいかなかった日は、たいてい光か構図のせいにしていました。写真が撮影のあとでどこに置かれ、誰に見られ、何を起こしたのかまで考えるようになったのは、撮影を依頼する側の事情に触れる時間が増えてからです。
撮影者が上手さを目指すこと自体は、責められることではありません。ただ、企業撮影の発注企業が撮影者に「良い写真を」と頼むとき、撮影者は上手い写真を思い浮かべ、発注企業は仕事になる写真を思い浮かべています。この言葉のずれを、どちらかが埋めないまま当日を迎えると、納品のときに不満として表に出ます。
「仕事になる写真」とは何か|用途・相手・起こしたいことの3つで決まる
仕事になる写真は、「どこに置くか」「誰に見せるか」「見た人に何を起こしたいか」の3つが決まったときに、初めて良し悪しを判断できるようになります。3つのどれかが空いたままだと、写真は上手さでしか評価できません。
写真の仕事は、見る人の頭の中で起きる
企業が写真に期待している仕事は、写真の中ではなく、それを見た人の頭の中で起きます。採用サイトなら、応募を考えている人が「この職場で自分が働く姿」を思い描けること。営業資料なら、取引先の担当者が「この会社はこの規模で、この体制でやっている」と理解すること。プレスリリースなら、記者が「この発表の中身はこれだ」と一目で分かること。
どれも、写真の美しさとは別の軸です。美しい写真が思い描く手助けになることは多いのですが、美しさが強すぎて職場の様子が見えなくなることもあります。仕事になる写真かどうかは、見た人が何を受け取ったかで決まります。
仕事になる写真の5つの条件
仕事になる写真に共通する条件を、私は次の5つに整理しています。上手さはこの5つすべての前提ですが、5つのどれも上手さだけでは満たせません。
| 条件 | 何が満たされていればよいか | 欠けたときに起きること |
|---|---|---|
| 用途に合っている | 置く場所の枠、縦横、余白、並べ方に合う形で撮られている | 1枚は良いのに、ページや資料に入れると収まらない |
| 相手に届く | 見る相手が知りたいこと、判断に使うことが写っている | きれいだが、相手が知りたい情報が写っていない |
| 事実として正しい | 会社の実際の様子と、写真が与える印象がずれていない | 見た人の期待と実態がずれ、あとで信頼を損なう |
| 組として揃っている | 必要なカットがそろい、光やトーンや目線の高さが統一されている | 使える写真が1枚ずつ散らばり、並べると統一感がない |
| 使い続けられる | 権利、写っている人の同意、情報の鮮度の点で、掲載期間中使える | 公開後に差し替えや削除が必要になる |
この5つのうち、発注企業が意識しやすいのは最初の2つです。見落とされやすいのは、残りの3つです。特に「事実として正しい」は、上手さと衝突しやすい条件です。職場を実際より広く明るく見せる、社員を実際より整った雰囲気に見せる、といった演出は、写真としては上手くても、採用では入社後のずれにつながることがあります。
「使い続けられる」の条件は、写真の出来とは別の話に見えますが、企業にとっては写真の価値そのものです。写っている人の同意の範囲や、撮影データの権利の扱いについては、モデルリリース(肖像権同意書)は誰が用意するのかと撮影データの著作権は誰のものか|企業が誤解している3点で整理しています。
「組として揃っている」の条件も、1枚ずつ見ていると気づきにくいものです。企業の写真は、ページや資料の中で何枚も並べて使われます。並べたときに光の向きや色味やトリミングが揃っていないと、1枚ずつは上手くても、見る人には「寄せ集め」に映ります。写真の良し悪しを1枚ではなく組で判断する習慣を持つだけで、納品物の見え方は変わります。
用途別に見る、上手い写真と仕事になる写真のずれ
上手い写真と仕事になる写真のずれは、用途ごとに違う場所に表れます。同じ撮影者が同じ上手さで撮っても、採用サイトでは働き、営業資料では働かない、ということが起きます。代表的な用途について、ずれが起きやすい場所を並べます。
| 用途 | 上手いが仕事になりにくい写真 | 仕事になる写真の条件 |
|---|---|---|
| 採用サイト・社員紹介 | 背景を大きくぼかした印象的なポートレート。職場の様子が見えない | 働く場所、仲間、仕事の手元が分かる。入社後の実際と印象がずれない |
| コーポレートサイト | 1枚で完結した構図の強い写真。上に文字を載せる余地がない | 見出しやボタンを載せる余白がある。パソコンとスマートフォンで切られても主題が残る |
| 営業資料・会社案内 | 作品として美しいが、会社の規模や体制が伝わらない写真 | 設備、人数、体制といった判断材料が写っている。資料の枠に収まる縦横比 |
| プレスリリース | 雰囲気は良いが、何の発表か分からない写真 | 発表の主役が一目で分かる。転載する側が使いやすい形で用意されている |
| 役員・経営者のプロフィール | 作風の強いポートレート。媒体によっては浮いてしまう | 社内外の複数の媒体で使い回せる。人柄と立場の両方が伝わる |
| 商品・EC | 光と影の演出が強いイメージカット。形や色が正確に伝わらない | 掲載先の規約に合う形式。色と形と大きさが正確に分かる |
| 社内報・イベント記録 | 登壇者1人を美しく撮った写真だけが残る | 会場の規模、参加者の様子、表彰の瞬間など、記録として必要な場面がそろう |
採用サイト|応募者は、自分が働く姿を探している
採用サイトで写真が担う仕事は、応募を考えている人が「この職場で自分が働く姿」を思い描けるようにすることです。応募者は写真の美しさよりも、どんな場所で、どんな人と、どんな仕事をしているかを見ています。背景を大きくぼかした印象的なポートレートは、写真としては上手くても、その情報を消してしまうことがあります。
採用の写真で気をつけたいのは、上手さが事実を上書きしてしまうことです。実際より広く、明るく、整って見える職場写真は、応募の段階では働いても、入社後の印象とのずれを生む場合があります。写真がどんな仕組みで応募行動に関わるかは採用サイトの写真で、応募数は本当に変わるのかで書いています。
コーポレートサイトとWeb|写真は枠に入れられ、切られて使われる
Webに載る写真は、ほとんどの場合、撮った形のままでは使われません。見出しやボタンが上に重なり、パソコンでは横長に、スマートフォンでは縦長に切り取られます。1枚で構図が完結した上手い写真ほど、切り取られたときに主題が欠けたり、文字を載せる場所がなかったりします。
仕事になるWeb用の写真は、使われ方を想定して、あらかじめ余白と切りしろを持たせて撮られています。撮影の段階で「この写真はどの枠に入るのか」を撮影者に伝えておくと、ずれは大きく減ります。サイトの写真を差し替える時期の考え方はコーポレートサイトの写真を撮り直すべきタイミング|更新を判断する7つのトリガーにまとめました。
営業資料とプレスリリース|写真は判断の材料として読まれる
営業資料やプレスリリースの写真は、鑑賞されるのではなく、判断の材料として読まれます。取引先の担当者は、写真から会社の規模や体制を読み取ろうとし、記者は発表の中身が一目で分かる写真を探します。雰囲気の良い写真であっても、読み取れる情報がなければ、資料の中では仕事をしません。
プレスリリースの写真は、転載する側が扱いやすい形で用意されていることも条件になります。何の発表の写真かが一目で分かり、記事の中に入れやすい形で渡せるかどうかです。詳しくはプレスリリースに載る写真の条件|メディアが転載できる1枚を用意するで書いています。
役員・経営者のプロフィール|1枚が何年も、何か所でも使われる
役員や経営者のプロフィール写真は、1回の撮影で撮った数枚が、会社案内、Webサイト、登壇の告知、取材記事、社内資料と、何年にもわたって何か所でも使われます。作風の強いポートレートは、ある媒体では映えても、別の媒体では浮いてしまうことがあります。
仕事になるプロフィール写真は、使い回される先を想定して、表情や背景、トリミングの幅を持たせて撮られています。人柄が伝わることと、その立場にふさわしく見えることを両立させる必要があり、上手さだけでは届かない判断が多い撮影です。考え方は社長・役員のプロフィール写真、失敗しないための全知識にまとめています。
撮影の現場で、「上手さ」の判断と「仕事」の判断はどこで分かれるか
上手さの判断と仕事の判断は、撮影の現場で撮影者が下す細かな選択のたびに分かれます。背景をどこまでぼかすか、余白をどれだけ残すか、どのカットを納品に残すか。どちらを優先するかで、同じ現場から違う写真が生まれます。
撮影者は1回の撮影のなかで、数えきれないほどの選択をしています。そのほとんどは発注企業の目に触れません。けれども、その選択の積み重ねが「上手いけれど使いにくい」写真と「仕事になる」写真を分けています。代表的な場面を表にします。
| 判断の場面 | 上手さを優先したときの選び方 | 仕事を優先したときの選び方 |
|---|---|---|
| 背景のぼかし方 | 背景を大きくぼかし、人物を浮かび上がらせる | 職場や設備が読み取れる程度に背景を残す |
| 構図と余白 | 1枚で完結するように、主題を画面いっぱいに置く | 文字やボタンを載せる余白と、切り取られても残る位置に主題を置く |
| 光と色 | その場の雰囲気を強める光や色を選ぶ | 同じ用途のカット同士で光と色がそろうように選ぶ |
| 表情 | いちばん印象の強い一瞬を選ぶ | その人らしさと、立場にふさわしい落ち着きの両方がある表情を選ぶ |
| 撮る範囲 | 撮影者が良いと感じた場面を深く撮る | 用途に必要なカットの組を、抜けなく撮る |
| 納品するカットの選び方 | 作品として完成度の高いカットを残す | 使う場所ごとに候補が選べるよう、向きや余白の違うカットも残す |
| レタッチ | 1枚ごとに最も美しく見えるよう仕上げる | 実際の印象から離れすぎない範囲で、組として揃うように仕上げる |
表の左側の選び方が間違っているわけではありません。作品撮りや広告のキービジュアルのように、印象の強さそのものが仕事になる用途もあります。問題は、用途が決まっていない撮影で、撮影者が自然に左側を選んでしまうことです。撮影者にとって左側は、腕を磨く過程で身につけた、いちばん手に馴染んだ選び方だからです。
右側の選び方をしてもらうには、撮影者が用途を知っている必要があります。余白が要ることを知らなければ余白は残らず、組でそろえることを知らなければ1枚ごとの最適が選ばれます。上手い撮影者ほど、用途さえ伝われば右側の選び方にも切り替えられます。切り替えのきっかけを渡すのは、発注企業と、間に立つ手配会社の役目です。
よくある型|社員紹介ページで起きる「上手いけれど使えない」
実在の案件ではなく、相談のなかでよく見かける形を1つの型として書きます。ある会社が採用サイトの社員紹介ページのために、社員10名ほどのポートレートを外注したとします。撮影者は上手く、1人ずつの写真は表情も光もきれいです。ところがページに並べると、人によって背景のぼけ方や明るさが違い、横に並べたときに統一感が出ません。どの写真も上半身が画面いっぱいで、デザイナーが名前と部署を重ねる場所もありません。
この型で撮影者が選んだのは、1人ずつを最も美しく撮る方法でした。一方でページが求めていたのは、同じ条件で並び、名前を載せる余白があり、職場の気配が少し感じられる写真でした。撮影前に「10名を同じ枠に並べる」「右側に名前を載せる」と伝わっていれば、撮影者は背景と光を固定し、余白を取って撮ったはずです。上手さは足りていて、向きだけが伝わっていなかったということです。
撮影の見積りは、内訳つきで無料です
用途・日程・場所をお知らせいただければ、拘束時間と人員の内訳が分かる見積りをお送りします。料金はハーフ(4時間枠)66,000円・フル(8時間枠)132,000円(税込)です。
上手いのに仕事にならない写真に共通する6つのずれ
上手いのに仕事にならない写真には、共通するずれがあります。どれも撮影者の腕が足りないのではなく、写真の向きが用途と合っていないことから起きます。私が発注企業の相談を受けるなかで、よく見かける形を6つに整理しました。
| ずれ | 写真で起きていること | 用途の側で起きること |
|---|---|---|
| 情報を消す表現 | 背景を大きくぼかす、逆光で雰囲気を作るなど、表現が情報を覆っている | 見る人が知りたい職場や設備の様子が伝わらない |
| 1枚は良いが組にならない | カットごとに光や色やトーンが違い、目線の高さもばらばら | サイトや資料に並べたときに統一感が出ない |
| 作風が会社の見え方を上書きする | 撮影者の好みの色や雰囲気が強く出ている | 会社のブランドの見え方と写真の印象が食い違う |
| 使う形になっていない | 余白がない、縦横の一方しかない、切ると主題が欠ける | 掲載枠に入らず、使える写真が数枚しか残らない |
| 事実と違って見える | 演出が強く、実際の職場や商品より良く見えすぎる | 見た人の期待と実態がずれ、あとで信頼を損なう |
| 使い続けられない | 写り込み、同意の範囲、季節や人の入れ替わりへの配慮がない | 公開後に差し替えや削除が必要になる |
6つのずれのうち、最初の3つは撮影者の上手さが原因になりやすいものです。表現が豊かな人ほど、情報より雰囲気を、組より1枚を、会社の色より自分の色を優先してしまうことがあります。上手さが向きを持たないまま発揮されると、こうしたずれになります。
残りの3つは、撮影者だけの責任ではありません。どの枠に入れるのか、どこまで演出してよいのか、誰が写ってよいのかは、発注企業にしか分からない情報です。撮影者がそれを知らなければ、どれだけ上手くても、仕事になる写真は偶然にしか撮れません。撮り直しになった撮影の原因を分析した撮り直しになった企業の実例と、その原因分析でも、写真の出来より前の段階での食い違いが多く出てきます。
上手くはないのに仕事になる写真はあるか|上手さは「床」、仕事は「向き」
上手くはないのに仕事になる写真は、あります。ただし、上手さが一定の床を下回らない範囲に限られます。社内報に載せる職場のスナップや、記録のための会場写真は、作品としての完成度がそれほど高くなくても、何が起きたかが正しく伝われば仕事をします。
一方で、床を割った写真は、どれだけ用途に合っていても仕事をしません。顔が暗く沈んでいる、ブレている、色が大きくずれている写真は、見る人に「この会社は写真に気を配っていない」という別の情報を伝えてしまいます。採用サイトや営業資料のように社外の人が判断に使う場所では、この床の高さが上がります。
| 用途 | 求められる上手さの床 | 仕事の向きで大事なこと |
|---|---|---|
| 社内報・記録 | 明るさとピントが確保され、誰が写っているか分かる | 何が起きたか、誰が参加したかが漏れなく残る |
| 採用サイト・社員紹介 | 表情が自然で、肌や色がきれいに見える | 働く姿と職場の実際が伝わる |
| コーポレートサイト・会社案内 | 会社の顔として恥ずかしくない完成度 | 余白と切りしろがあり、会社の見え方と揃っている |
| 役員・経営者のプロフィール | 立場にふさわしい品位と完成度 | 複数の媒体で長く使い回せる |
床の高さを決めるのは、写真を見る人が誰かです。社内の人は撮影の事情を知っているので、多少暗い写真でも中身を読み取ってくれます。社外の人は事情を知らないまま、写真の出来をそのまま会社の姿として受け取ります。同じ職場の写真でも、社内報に載せるか採用サイトに載せるかで、求められる上手さが変わるのはこのためです。
この表の見方は、上手さを高さ、仕事を向きとして考えることです。高さは床さえ越えていれば、それ以上は用途によって必要な分だけでかまいません。向きは、どの用途でも外せません。自社で撮る写真と外注する写真の分け方も、この考え方で整理できます。調達の手段ごとの使い分けはオウンドメディアの記事用写真、内製と外注の分岐点|4つの調達手段の使い分けで書いています。
仕事になる写真は、シャッターの前にほとんど決まる
仕事になる写真かどうかは、撮影当日よりも、撮影の前に決まる部分が大きいと考えています。上手さは撮影者が当日の現場で発揮するものですが、写真の向きは、撮影の前に「どこに置き、誰に見せ、何を起こしたいか」を言葉にしておかなければ定まらないからです。
撮影の準備というと、日程や場所や人数の調整を思い浮かべる方が多いと思います。それも欠かせませんが、写真の向きを決める準備は別にあります。私が発注企業と打ち合わせをするときに、順に確かめている流れを5つの段階で書きます。
写真を置く場所を先に決める
撮影の前に、写真が入るページや資料や媒体を具体的に挙げます。採用サイトのトップ、社員紹介のページ、会社案内のパンフレット、営業資料の表紙、といった単位です。置く場所が決まると、必要な縦横比、余白、枚数が決まり、撮影者はそれに合わせて撮れます。
見る相手と、起こしたいことを一文にする
置く場所ごとに、誰が見て、見たあとに何を理解してほしいか、どう動いてほしいかを一文にします。「応募を考えている人が、職場の雰囲気と仕事の中身を思い描ける」といった形です。この一文が、撮影者にとっての判断の基準になります。
必要なカットを組で書き出す
1枚ずつではなく、用途ごとに必要なカットの組を書き出します。人物の単独と複数、働く姿と表情、全景と手元、といった組み合わせです。イベントや展示会では、使い道から逆算したカットの一覧を作ると抜けが出にくくなります。
使う形と、演出してよい範囲を決める
縦横の両方が要るか、文字を載せる余白が要るか、どこまで演出してよいか、写してはいけないものは何かを決めます。特に演出の範囲は、上手さと事実の正しさがぶつかるところなので、発注企業の側で線を引いておくと当日の迷いが減ります。
納品後に、実際に置いて確かめる
納品された写真を、実際のページや資料の枠に入れて確かめます。単体で見たときの印象と、置いたときの働き方は違います。ここで気づいたことを次回の撮影の準備に戻すと、写真の向きは回を重ねるごとに合っていきます。
5つの段階のうち、発注企業にしかできないのは最初の2つです。残りの3つは撮影者や手配会社と一緒に詰めていけますが、置く場所と起こしたいことが空いたままでは、どれだけ上手い撮影者でも向きを決められません。社内イベントで進行台本から撮影の時間割を組む手順は社内イベント・表彰式の撮影で押さえるべきこと|進行台本から撮影スロットを作る手順に、展示会で使い道からカットを逆算する方法は展示会ブースの撮影を、翌年の集客資産に変える方法|使い道から逆算するカット表に書いています。
撮影者の「上手さ」と「仕事になる力」は、どこに表れるか
撮影者の上手さは作品集に表れ、仕事になる写真を撮る力は、打ち合わせでの質問と、1案件分の写真の組に表れます。作品集を見るだけでは、上手さしか確かめられません。
仕事になる写真を撮れる撮影者は、打ち合わせで「その写真はどこに使いますか」「誰が見ますか」と聞いてきます。置く場所と相手が分からないと、写真の向きを決められないことを知っているからです。反対に、用途を聞かずに撮影の段取りだけを話す撮影者は、上手い写真を撮ることはできても、仕事になる写真は発注企業の説明の丁寧さに頼ることになります。
もう1つの手がかりは、1案件分の写真をまとめて見せてもらうことです。作品集の1枚ではなく、ある企業の撮影で納品した写真の組を見ると、光やトーンが揃っているか、用途に必要なカットがそろっているかが分かります。作品集の読み方は元カメラマンだから分かる、ポートフォリオの嘘の見抜き方|ベストカットの裏側を読む技術で詳しく書いています。発注前に撮影者へ投げる質問はプロを名乗るアマチュアの見分け方|元カメラマンが教える5つの質問にまとめました。
撮影者の人柄も、仕事になる写真に関わります。企業撮影の被写体は撮られることに慣れていない方が多く、その方たちが自然な表情でいられるかどうかは、撮影者の接し方で変わります。人柄をなぜ重く見るのかはなぜ「人柄」を機材や実績より重く見るのか|企業撮影の写真を決めるもので書きました。
発注の前に、自社で言葉にしておきたいこと
撮影者を探す前に、社内で次のことを言葉にしておくと、撮影者との打ち合わせで写真の向きを合わせやすくなります。全部がそろっていなくてもかまいません。空いている項目は、打ち合わせで撮影者や手配会社と一緒に埋めていけます。
- この写真を置くページ、資料、媒体はどこか
- それぞれの写真を見るのは誰か
- 見た人に何を理解してほしいか、どう動いてほしいか
- 用途ごとに必要なカットの組と、おおよその枚数
- 縦横比、文字を載せる余白、切り取られ方の条件
- どこまで演出してよいか。実際の様子とのずれをどこまで許すか
- 写ってよい人、写してはいけないもの、掲載してよい期間
- いま使っている写真で、使いにくいと感じているところ
最後の項目は、見落とされがちですが役に立ちます。いま使っている写真のどこが使いにくいかは、仕事になる写真の条件を裏返したものです。「上手いけれど使いにくい」と感じている写真があれば、その理由を打ち合わせで話していただくと、次の撮影の向きが決まります。発注前の確認事項の全体は、撮影を外注する前に確認するチェックリスト20項目にまとめています。
社内で「良い写真」の意味をそろえておく
撮影者と向きをそろえる前に、社内で「良い写真」の意味をそろえておくと、納品後の評価が割れにくくなります。写真の良し悪しは誰でも語れるぶん、社内で見る人によって基準が違うことが多いからです。
経営者や役員は、会社の顔としての完成度、つまり上手さを重く見ることがあります。採用の担当者は応募者に伝わるかどうかを、Webの担当者は枠に収まるかどうかを見ます。それぞれが自分の基準で納品物を見ると、ある人は「きれいに撮れている」と言い、別の人は「使えない」と言う状態になります。担当者はその間で説明に回ることになります。
この食い違いを減らすには、撮影の前に「この写真は何の仕事をするのか」を社内で共有しておくのが近道です。用途と見る相手と起こしたいことが共有されていれば、納品物を評価するときの物差しも1つにそろいます。社内で写真の評価が割れたときに担当者が置かれる状況は、発注担当者が社内で詰められる「写真の失敗」あるあるで書いています。
自社の撮影で、どの写真に何の仕事をさせたいかがまだ整理できていない段階でも、ご相談いただいて構いません。写真を使う予定の媒体と、見てほしい相手をお知らせいただければ、用途ごとに必要なカットの組と、それに合う撮影枠の見当をお返しします。置く場所がまだ決まっていない写真があれば、その整理から一緒に進めます。
元カメラマンとして、なぜ「仕事になる写真」にこだわるのか
私が仕事になる写真にこだわるのは、写真の価値を決めるのが、最終的には撮った人ではなく使う人だと考えているからです。撮影者は撮った瞬間に仕事を終えますが、発注企業にとって写真の仕事は、掲載されてから始まります。
実家の写真館を継いでいたころ、腕のある撮影者が何人もいるのに、仕事が安定して回っていない現実を見てきました。撮影の技術と、仕事が途切れないことは同じではありません。いま振り返ると、仕事が続いていた撮影者は、上手さに加えて、依頼した人がその写真で何をしたいのかを気にかけていた人でした。
手配する側に回ってからは、この違いを審査の場で見ています。上手さは作品集で確かめられますが、仕事になる写真を撮る力は、用途を聞く姿勢や、1案件分の写真の揃い方に表れます。だから私たちは、上手さを前提としたうえで、発注企業の用途に写真を向けられるかどうかを見て人を選んでいます。
撮影費は、上手さではなく「写真の仕事」に払うもの
企業が撮影に払う費用は、写真の上手さそのものではなく、写真が掲載期間中にする仕事に払うものだと私は考えています。上手さに払うと考えると、費用は「もっと上手い人ならいくら」という比べ方になり、上限がありません。仕事に払うと考えると、「この用途で、この期間、この相手に働いてもらうには何が要るか」という比べ方になり、必要な分が見えてきます。
この考え方は、社内で撮影費を説明するときにも役に立ちます。「上手いカメラマンだから高い」という説明は、上手さを測る物差しを持たない人には伝わりにくいものです。「採用サイトと会社案内と営業資料で、今後使い続ける写真の組を用意する費用」と言い換えると、費用が何に対するものかが伝わりやすくなります。撮影費を成果の側から説明する考え方は、撮影費を「経費」ではなく「投資」に変える考え方と半日の撮影料金に大きな差が出る理由でも書いています。
手配会社に任せる場合、何を預けられるか
手配会社に任せる場合に預けられるのは、写真の向きを撮影者に伝え、当日そのとおりに撮られているかを見る工程です。発注企業の用途を聞き取り、撮影者が理解できる形に直して渡し、撮影当日に向きがずれていないかを確かめる。この工程を担う人がいるかどうかで、仕事になる写真が偶然に頼らずに撮れるかが決まります。
日本プロカメラマン手配では、打ち合わせから撮影当日のディレクション、成果物の納品までを運営会社が一貫して担当しています。登録している撮影者は全国で30名程度に絞っており、東京・大阪が最も多く、金沢・福岡にも在籍しています。審査では技術と機材に加えて、服装や態度、当日動けなくなったときの代替のリスクまで見ています。
写真を組として揃えるために、レタッチは肌の質感、色温度、トリミングなどの基準を定めて運用しています。社員写真のように人数の多い撮影では、事前に撮影スロット(時間割)を運営会社が作成するので、被写体ごとに光や背景がばらつかない進行を当日より前に組めます。人数の多い撮影の組み方は社員写真を全員分そろえる|100人規模の撮影を回す時間割と日程の組み方で書いています。
預けられないものもあります。それは、写真をどこに置き、誰に見せ、何を起こしたいかという、発注企業にしか決められない部分です。この部分が決まっていなくても、打ち合わせでこちらから質問して一緒に整理しますが、最後に決めるのは発注企業です。
この記事で書いていないこと
この記事では、仕事になる写真に変えたことで応募数や問い合わせがどれだけ増えるかといった数値は示していません。写真の寄与だけを取り出して測ることができず、手元に検証できる数字がないためです。ここに書いた定義や条件は、元カメラマンとして撮る側に立ち、いまは撮影者を審査する立場から一般化したものです。撮影者の審査の具体的な手順や、撮影当日の振る舞いの基準は、それぞれの記事に譲っています。写っている人の同意や撮影データの権利に関わる判断は、契約の内容と専門家の確認を優先してください。
この記事の次に読むと、判断が一段速くなります
- 審査の全体像を確認したいとき:カメラマンを審査する4つの基準|人柄・機材・実績・ポートフォリオ
- 作品と現場での力のずれを知りたいとき:ポートフォリオが良いのに現場で失敗するカメラマンの特徴
- 作品集の読み方を知りたいとき:元カメラマンだから分かる、ポートフォリオの嘘の見抜き方|ベストカットの裏側を読む技術
- 撮影費を成果の側から説明したいとき:撮影費を「経費」ではなく「投資」に変える考え方
- 撮り直しの原因を知りたいとき:撮り直しになった企業の実例と、その原因分析
仕事になる写真を撮れる撮影者を自社で見極める時間がない場合は、その工程ごとお任せいただけます。写真を使う媒体、見てほしい相手、被写体の人数と撮影場所、希望日程の幅をお知らせいただければ、その用途に合う人選と撮影枠の見当をお返しします。基本料金は時間単位で、ハーフ(半日・4時間枠)が60,000円+税=66,000円、フル(1日・8時間枠)が120,000円+税=132,000円です。標準機材と商用利用権は基本料金に含み、交通費などの諸経費は実費のまま見積りに明記します。
よくある質問
「上手い写真」と「仕事になる写真」の違いは何ですか
評価が決まる場所の違いです。上手い写真は、構図や光や表情といった写真の中の完成度で評価が完結します。仕事になる写真は、採用サイトや営業資料など企業が決めた場所に置かれ、決めた相手に理解や行動を起こしたかどうかで評価が決まります。仕事になる写真の多くは上手い写真でもありますが、上手い写真がすべて仕事になるわけではありません。
上手いカメラマンに頼めば、仕事になる写真は撮れますか
上手さだけでは届きません。上手さは写真が仕事をするための前提ですが、写真をどこに置き、誰に見せ、何を起こしたいかが撮影者に伝わっていなければ、写真の向きは決まりません。打ち合わせで用途や見る相手を聞いてくる撮影者かどうか、1案件分の写真が組として揃っているかどうかを確かめると、仕事になる写真を撮る力が見えてきます。
仕事になる写真を撮ってもらうために、発注側は何を伝えればよいですか
写真を置くページや資料や媒体、それを見る相手、見た人に理解してほしいことやしてほしい行動の3つを伝えるのが基本です。あわせて、用途ごとに必要なカットの組、縦横比や文字を載せる余白、演出してよい範囲、写してはいけないものを伝えると、撮影者は写真の向きを合わせやすくなります。全部が決まっていなくても、分かっている範囲から伝えれば構いません。
スマートフォンで撮った写真でも、仕事になる写真になりますか
用途によってはなります。社内報や記録のように、何が起きたかが正しく伝われば役目を果たす用途なら、明るさとピントが確保されていれば仕事をします。一方で、採用サイトや会社案内のように社外の人が判断に使う場所では、求められる上手さの床が上がります。床を下回る写真は、会社が写真に気を配っていないという別の印象を伝えてしまうため、用途ごとに使い分けるのが現実的です。
納品された写真が仕事になる写真かどうかは、どう確かめればよいですか
写真を単体で見るのではなく、実際に置くページや資料の枠に入れて確かめます。枠に収まるか、文字を載せられるか、並べたときに統一感があるか、見る相手が知りたい情報が写っているかを見てください。単体では良く見えても、置いたときに働かない写真は少なくありません。気づいたことを次回の撮影の準備に戻すと、写真の向きは回を重ねるごとに合っていきます。
