結論から言うと、撮影費用に決まった勘定科目はありません。法人税法にも会社法にも「撮影費はこの科目で処理する」という定めがないからです。撮影という役務そのものは、原則としてその期の費用になります。決めるべきは、自社の科目体系のどこに置くかと、毎期同じ扱いを続けられるか。この2点だけです。
撮影費用の勘定科目は、法令で決まっていない
ACCOUNT TITLE BASICS

広報から回ってきた撮影の請求書を前に、「これは広告宣伝費でいいのか、外注費なのか」と手が止まる。前任者は広告宣伝費で通していたけれど、その根拠を引き継ぎ資料から見つけられない。経理の現場でよく起きる状況です。
ここで探しても見つからないものがあります。「撮影費はこの科目」という正解です。法人税法も法人税法施行令も、会社計算規則も、費用の勘定科目の名前を個別に指定していません。科目名は、企業が自社の実態に合わせて設定するものだからです。ですから、前任者が広告宣伝費で処理していたこと自体は誤りではありません。問題は、その理由が引き継がれていないことのほうにあります。
判断軸は2つに絞れます。1つ目は、自社の科目体系のどこに置くのが説明しやすいか。2つ目は、その扱いを来期も再来期も同じように続けられるか。この2つを満たせば、その科目で問題ありません。逆に、案件ごとに科目が揺れている状態のほうが、期間比較を崩し、あとで説明を求められる原因になります。
そのうえで、経理として本当に押さえる必要があるのは、科目名ではなく次の3つです。第1に、その支出が当期の費用になるのか、資産に計上して先送りになるのか。第2に、決算をまたぐときにどちらの期に入るのか。第3に、支払先が個人のときに源泉徴収が要るのか。この記事は、この3つに絞って整理します。
この記事の位置づけについて
以下は、法人税法施行令および所得税法の条文をもとにした一般的な整理です。撮影費用の税務上の取扱いは、契約の内容・請求の立て方・自社の会計方針によって結論が変わります。個別の取引をどう処理するかの最終的な判断は、自社の会計方針と、顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。この記事は、確認するときに何を材料として持っていけばよいかを整理するためのものです。
用途別に見る、撮影費用の科目の選び方
科目を選ぶときは、「何を撮ったか」ではなく「その写真を何に使うか」から考えると迷いません。同じ社員のポートレートでも、採用サイトに載せるのか、社員証に使うのか、決算説明資料に載せるのかで、社内の説明のしやすさが変わるからです。
下の表は、実務で使われることが多い科目と、その科目が選ばれる理由を整理したものです。表の科目が正解というわけではなく、自社の科目体系と整合するほうを優先してください。
| 撮影の用途 | 使われることが多い科目 | その科目が選ばれる理由 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 採用サイト・社員紹介用の社員撮影 | 採用費(求人費)/広告宣伝費 | 採用活動に直接ひもづく支出として説明できる。採用予算の管理単位と一致させやすい | 採用費を独立させていない会社では広告宣伝費に寄せることが多い。年度の採用予算との対応を崩さない |
| 商品・EC用の商品撮影 | 広告宣伝費/販売促進費 | 販売のための表現物をつくる支出として説明しやすい | 商品パッケージや制作物の一部として一体で請求される場合は、資産計上の論点が出ることがある |
| 役員・経営者のプロフィール撮影 | 広告宣伝費/支払手数料/外注費 | 対外的な発信に使うなら広告宣伝費、役務の外部委託と整理するなら外注費として説明できる | 金額が小さく単発になりやすいため、科目が案件ごとに揺れやすい。社内ルールを決めておく |
| 社内イベント・表彰式の記録撮影 | 福利厚生費/会議費/外注費 | 社内向けの行事記録という性格から福利厚生費に寄せる会社がある | 広報用に社外へ出すカットが含まれるなら、福利厚生費で通すと説明が苦しくなることがある |
| 会社案内・パンフレット用の撮影 | 広告宣伝費/販売促進費 | 印刷物の制作に付随する支出として一体で管理しやすい | 印刷物が期末に未使用のまま残る場合、印刷物側で貯蔵品の論点が出る |
| Webサイト・LP制作に組み込まれた撮影 | 制作費の一部として一体処理/外注費 | 制作会社から一式で請求されるため、内訳を分けにくい | サイトやシステムの資産計上の判断に巻き込まれる。この記事で最も注意が要る場面 |
表を見て気づくとおり、同じ撮影でも複数の科目が候補になります。ここで「どれが正しいか」を突き詰めても答えは出ません。実務としては、自社で「採用サイト用の撮影は採用費」「商品撮影は広告宣伝費」というように用途と科目の対応表を1枚つくり、それを毎期使い続けるのが最も早い解決です。対応表があれば、次の担当者が同じ場所で止まらずに済みます。
外注費・業務委託費・支払手数料をどう使い分けるか
「用途で決める」と言われても、用途がはっきりしない撮影もあります。そのときに受け皿になるのが、外注費・業務委託費・支払手数料といった、役務の外部委託を表す科目です。この3つの使い分けも法令で決まっているわけではないので、社内での意味づけを揃えるほうが実務的です。
| 科目 | その科目に置くときの考え方 | 撮影費で使う場面 |
|---|---|---|
| 外注費 | 本来は自社でも行える作業を、外部に出して成果物を受け取る支出として整理する | 制作物の一工程として撮影を発注しているとき。制作会社経由の撮影も含めやすい |
| 業務委託費 | 特定の業務そのものを委託する支出として整理する。外注費と実質的に同義で運用している会社も多い | 撮影を単発ではなく年間で委託しているとき。契約書の名称と揃えやすい |
| 支払手数料 | 専門的な役務の対価として整理する | 単発・少額で、広告宣伝の性格が薄い撮影のとき |
気をつけたいのは、外注費という科目名が、税務上の「外注か給与か」の議論と直結すると誤解されやすいことです。個人に支払う報酬が外注費なのか給与なのかは、指揮命令の有無や業務の実態で判断される論点であり、こちらが選んだ科目名で決まるものではありません。実態として業務委託であれば、科目名にかかわらず業務委託として整理されます。逆に、外注費という科目に置いたからといって、それだけで外注として扱われる保証にはなりません。
実態を整えるためにできるのは、契約書の名称と請求書の記載を揃えておくことです。契約書は「業務委託契約書」なのに請求書の摘要が別の言い方になっている、という状態は、あとで説明を求められたときに手間になります。ここは経理だけで決められないので、発注部署と一緒に確認してください。発注まわりで実際に起きやすいずれは撮影発注のトラブル事例集|納期・データ・著作権にまとめてあります。
資産計上が問題になる3つの場面
撮影という役務そのものは、提供を受けた期の費用になるのが原則です。カメラマンが現地に来て、撮って、データを納品する。この一連の役務は、その期に消費されて終わります。にもかかわらず資産計上が話題になるのは、撮影費が「単独の役務」として請求されていないときです。
資産計上が問題になる場面は、実務上ほぼ次の3つに絞られます。
| 場面 | 何が起きているか | 先に確認すること |
|---|---|---|
| (a) Webサイトやシステムの制作費に組み込まれて納品される | 撮影費が制作費一式に含まれ、制作物の取得価額に取り込まれるかどうかが論点になる | 見積書と請求書で撮影費が独立した行になっているか。分けられるなら分けて請求してもらう |
| (b) パンフレット・カタログなどの印刷物が期末に未使用で残る | 印刷物そのものが貯蔵品として棚卸の対象になるかが論点になる。撮影費が印刷費と一体で請求されていると巻き込まれる | 期末時点で在庫が何部残るか。撮影費と印刷費が請求書で分かれているか |
| (c) 決算をまたぐ | 撮影日・納品日・検収日が期をまたぎ、どちらの期の費用かが論点になる | 社内の計上基準が定まっているか。契約書・発注書に納品日と検収の定めがあるか |
(a)について、法人税法施行令第13条第8号は無形固定資産を列挙しており、その中にソフトウエアが含まれています。そして同令第54条第1項第1号は、購入した減価償却資産の取得価額について、購入の代価に加えて「当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額」を含めると定めています。制作会社から「サイト制作一式」で請求され、その中に撮影費が溶け込んでいる状態では、この取得価額の範囲をどこまでと見るかという議論に、撮影費が引きずられます。
ここで経理ができる最も効果的な打ち手は、税務の解釈を掘ることではなく、発注段階で請求の立て方を変えてもらうことです。撮影費を独立した行にしてもらえば、制作物の取得価額の議論と切り離して検討できます。すでに一式で請求が来てしまった案件については、内訳の提示を依頼したうえで、資産計上の要否を顧問税理士に確認するのが安全です。
(b)は、撮影費そのものというより印刷物の話です。ただし、制作会社が撮影・デザイン・印刷を一体で請け負っている場合、請求書が1行になっていると撮影費まで印刷物の原価に含めて考えることになります。ここも請求書の内訳を分けてもらうことで論点を小さくできます。
(c)は次の章で詳しく扱います。3つに共通しているのは、撮影という役務の性質が問題なのではなく、請求書の立て方と契約の書き方が論点をつくっているということです。撮影見積書の読み方|どこを見れば適正か分かるかで解説している内訳の見方は、査定のためだけでなく、経理処理を楽にするためにも使えます。
著作権を買い取ったら、無形固定資産になるのか
「写真の著作権を譲り受けたのだから、権利という資産を取得したことになるのではないか」という質問を受けることがあります。ここには、条文をそのまま読むと分かる材料があります。
法人税法施行令第13条は減価償却資産の範囲を定めており、第8号に無形固定資産が列挙されています。列挙されているのは、鉱業権、貯留権、漁業権、ダム使用権、水利権、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、ソフトウエア、育成者権、公共施設等運営権、樹木採取権、漁港水面施設運営権、営業権、専用側線利用権などです。
この列挙に、著作権は入っていません。特許権・実用新案権・意匠権・商標権という工業所有権が並んでいるので、その流れで著作権も入っていそうに見えるのですが、条文の列挙には含まれていないというのが事実です。ソフトウエアが独立して挙げられていることからも、著作物一般が想定されているわけではないことが読み取れます。
ここから先を断定しないでください
「列挙にない」という事実から、「だから全額を当期の損金にできる」と結論づけるのは飛躍です。減価償却資産として列挙されていないことと、その支出が当期の費用になることは、別の話だからです。金額が大きい買い取りや、複数年にわたって使う前提の権利取得については、自社の会計方針を確認したうえで、顧問税理士にご相談ください。この記事で言えるのは、条文の列挙に著作権という語がない、というところまでです。
もう一つ、実務で誤解が多いところがあります。撮影の見積書に出てくる「買い取り」という言葉は、著作権の譲渡を意味しているとは限りません。権利を移さずに「追加費用なく使ってよい」と認める利用の許諾を指していることも、単にデータを渡すことを指していることもあります。つまり、請求書に「買い取り」と書かれているだけでは、著作権が移転したかどうかが判断できません。
経理として押さえるべきは、契約書で権利がどう扱われているかです。言葉の中身の見分け方は写真の「買い取り」「二次利用可」の意味を、企業側の言葉で説明するに、権利が誰に帰属するかの整理は撮影データの著作権は誰のものか|企業が誤解している3点にまとめてあります。処理を決める前に、発注部署から契約書を取り寄せてください。
10万円・20万円のルールは、撮影費に効くのか
ここが、経理担当者が最も混乱しやすいところです。結論を先に言うと、10万円未満・20万円未満というよく知られたルールは、減価償却資産についての定めです。役務の対価である撮影費に、そのまま当てはめる話ではありません。
条文を確認します。法人税法施行令第133条第1項は、取得価額が10万円未満であるもの、または使用可能期間が1年未満であるものについて、事業の用に供した日の属する事業年度で損金経理をした金額を損金算入できると定めています。同令第133条の2第1項は、取得価額が20万円未満の減価償却資産を一括したもの(一括償却資産)について、一括償却対象額を36で除し、当該事業年度の月数を乗じた金額まで損金算入できると定めています。36で除すという計算から、3年間の均等償却になります。
ここで見落とされやすいのが、2つとも主語が減価償却資産だということです。カメラマンに撮影を依頼して受け取る役務は、資産の購入ではありません。ですから「撮影費が10万円を超えたから資産計上が要るのではないか」という心配は、多くの場合そもそも土俵が違います。撮影費が66,000円だろうが132,000円だろうが、役務の対価であることに変わりはないからです。
では、この2つの条文がまったく無関係かというと、そうではありません。前の章で見た(a)の場面、つまり撮影費が制作物の取得価額に取り込まれる形になっているときは、その制作物が減価償却資産に当たるかどうかの判断を経由して、金額基準の話に接続します。順番としては、まず「これは資産の取得なのか、役務の対価なのか」を判断し、資産の取得だと整理された場合に初めて金額基準を見る、という流れになります。
なお、法人税法施行令第14条第1項は繰延資産の範囲を定めており、第6号に「支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもの」として、自己が便益を受ける公共的施設・共同的施設の設置改良費、資産の賃借や使用のための権利金・立ちのき料、役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用、などが挙げられています。ここに挙がっているのは権利金その他の費用であり、撮影という役務の対価そのものを指すものではありません。ただし、契約の形によって支出の性質が変わることはあるため、長期契約で一時金を支払うような形をとる場合は、顧問税理士にご確認ください。
決算をまたぐとき|撮影日・納品日・検収日のどれを基準にするか
3月決算の会社で、3月25日に撮影し、4月3日にデータが納品され、4月10日に検収した。この撮影費はどちらの期の費用か。これが期ズレの典型です。
ここでも、条文が答えを1つに決めてくれるわけではありません。法人税法施行令第14条第2項は前払費用について、法人が一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出する費用のうち、支出日の属する事業年度終了の日においてまだ提供を受けていない役務に対応するもの、と定義しています。逆に言えば、期末までに役務の提供を受けているものは前払費用ではありません。判断の軸は「その期末時点で役務の提供を受け終わっているか」にあります。
撮影の場合、この「役務の提供を受け終わったか」の判定に使える候補日が3つあります。
| 基準にする日 | その日を基準にする考え方 | 採用するときに決めておくこと |
|---|---|---|
| 撮影日 | カメラマンが現地で撮影を行った日をもって、主たる役務が提供されたと考える | レタッチ・納品が翌期になっても当期処理する運用でよいか。社内で明文化しておく |
| 納品日 | 成果物であるデータを受領した日をもって、役務の提供が完了したと考える | 納品日をどう記録するか。データ受領の記録が残る手段(納品書・共有ストレージの日付)を決める |
| 検収日 | 納品物を確認し、社内で受け入れを承認した日をもって完了と考える | 検収の手続きが実在するか。形式だけの検収で期をまたがせる運用にならないようにする |
大切なのは、どれを選ぶかよりも、選んだ基準を社内で決めて、案件ごとにぶらさないことです。撮影日基準の案件と検収日基準の案件が混在していると、期末に近い撮影が出るたびに判断が発生し、そのたびに誰かが迷います。年度の途中で基準を変えると、期間比較も崩れます。
もう一つ、実務で効くのは発注書に納品予定日と検収の定めを書いておくことです。書いてあれば、期末に近い案件でも判断材料が請求書の外にあります。撮影を外注する前に確認すべきチェックリスト20項目には発注前に固めておく項目をまとめてあるので、発注部署に渡す資料として使ってください。
年度末の撮影は、そもそも件数が集中しがちです。年間で撮影を発注しているなら、期をまたぐ発注を減らす日程設計も打ち手になります。年間で撮影を発注する企業のコスト最適化パターンで触れている発注のまとめ方は、経理処理の平準化にもつながります。
個人カメラマンに払うとき|源泉徴収の要否と10.21%
科目よりも間違えたときの影響が大きいのが、源泉徴収です。ここは条文で範囲が決まっているので、順番に確認します。
所得税法第204条第1項第1号は、原稿、さし絵、作曲、レコード吹込みまたはデザインの報酬、放送謝金、著作権(著作隣接権を含む)または工業所有権の使用料および講演料、ならびにこれらに類するもので政令で定める報酬または料金を居住者に支払う者は、支払の際に所得税を徴収し、徴収の日の属する月の翌月10日までに国に納付しなければならない、と定めています。
そして、この「政令で定める報酬又は料金」を定めた所得税法施行令第320条第1項に、「雑誌、広告その他の印刷物に掲載するための写真」の報酬もしくは料金が列挙されています。つまり、印刷物に掲載するための写真の報酬は、源泉徴収の対象として条文に位置づけられています。
税率は、所得税法第205条第1号が100分の10と定め、同一人に対し一回に支払われる金額が100万円を超える場合には、その超える部分について100分の20としています。これに復興特別所得税が加わります。復興財確法第28条第1項・第2項は、所得税を徴収して納付すべき者は、その徴収の際に復興特別所得税を併せて徴収して納付するものとし、その額は徴収して納付すべき所得税の額に100分の2.1の税率を乗じて計算した金額と定めています。合わせると10.21%、100万円を超える部分は20.42%になります。
| 項目 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 対象になる報酬の例 | 雑誌、広告その他の印刷物に掲載するための写真の報酬もしくは料金 | 所得税法第204条第1項第1号/所得税法施行令第320条第1項 |
| 税率(原則) | 10.21%(所得税10%+復興特別所得税2.1%相当) | 所得税法第205条第1号/復興財確法第28条第1項・第2項 |
| 税率(100万円超の部分) | その超える部分について20.42% | 同上 |
| 納付期限 | 徴収の日の属する月の翌月10日 | 所得税法第204条第1項 |
| 支払先が法人(株式会社等)の場合 | 第204条第1項は居住者に対し支払をする者を対象としており、法人への支払いはこの枠組みの外にある | 所得税法第204条第1項 |
実務でまず切り分けるべきは、支払先が個人か法人かです。所得税法第204条第1項は「居住者に対し」報酬・料金を支払う者を対象にしています。撮影会社や手配会社が株式会社であれば、この枠組みの外の話になります。個人事業主のカメラマンに直接支払っている場合に、この検討が発生します。
次に、その撮影の対価がどの号に当たるかです。ここは丁寧に扱ってください。源泉徴収の要否は「支払う報酬がどの号に当たるか」で決まるため、撮影料であれば何でも第204条第1項第1号に当たる、と読むことはできません。施行令第320条第1項が挙げているのは「雑誌、広告その他の印刷物に掲載するための写真」です。採用サイトにだけ載せる社員写真のように、印刷物への掲載を予定していない撮影をどう扱うかは判断が分かれるところなので、顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
もう一つ、支払う側が個人である場合の例外があります。所得税法第204条第2項第2号は、給与等につき所得税を徴収して納付すべき個人以外の個人から支払われるものには第1項を適用しないと定めています。法人が支払う場合には関係しませんが、条文の構造として押さえておくと質問されたときに答えられます。
私自身がカメラマンとして請求書を出していた頃、源泉徴収されている入金と、されていない入金が混在していました。当時は理由が分からず、経理の判断が会社ごとに違うのだろうと受け止めていました。エージェント側に回って条文を読み直して分かったのは、判断が分かれていたのは会社の気分ではなく、写真の使い道の違いだったということです。同じ人が撮った同じような写真でも、印刷物に載せるのかWebだけなのかで検討の入口が変わる。ここを発注時に書き分けておけば、経理と発注部署の往復が1回減ります。
源泉徴収は、後から直すコストが大きい
科目の選び方は、後から振り替えれば整います。一方、源泉徴収は納付期限が徴収の日の属する月の翌月10日と決まっており、支払先との金銭のやり取りも絡むため、後から直すのに手間がかかります。個人への支払いが出てきた案件は、支払前に顧問税理士・所轄税務署に確認する順番にしておくと、後戻りが減ります。
消費税とインボイスは、勘定科目とは別の論点
勘定科目・資産計上・源泉徴収を整理したら、最後に消費税の仕入税額控除が残ります。ここは科目の話とは独立した論点なので、混ぜないでください。免税事業者のカメラマンに支払った場合の経過措置は、2026年10月1日から2028年9月30日までの課税仕入れについて仕入税額相当額の70%を控除できる区分に入っています。80%の期間は2026年9月30日で終わっているため、社内マニュアルの数字が80%のままになっていないか確認しておくとよいでしょう。
控除割合は課税仕入れの時期で判定し、役務提供については約した役務の全部が完了した日で見ます。撮影の場合、この完了日の考え方は、前の章で扱った期ズレの基準と隣り合わせになります。詳しい取扱いはインボイス制度で個人カメラマンへの発注はどう変わったかにまとめてあります。
日本プロカメラマン手配の場合|請求書に何が載るか
ここまで見てきたとおり、経理側の手間の多くは、請求書の立て方から生まれます。日本プロカメラマン手配で発注いただいた場合に、請求書がどうなるかを書いておきます。
まず、支払先は株式会社ファーストブレイクです。カメラマンは業務委託ですが、契約と請求の窓口は運営会社であり、発注企業から個人カメラマンへ直接支払いが発生する形にはなりません。前の章の切り分けでいえば、法人への支払いになります。適格請求書発行事業者の登録番号は T2020001106718 です。
次に、金額の構造です。基本料金は時間単位で、ハーフ(半日・4時間枠)が60,000円+税=66,000円、フル(1日・8時間枠)が120,000円+税=132,000円。標準機材と商用利用権が基本料金に含まれています。商用利用権が込みなので、「二次利用料」「使用料」という行が後から立つことはありません。著作権まわりの追加請求で科目が増える、という状況が起きない設計です。
| 請求書に載る項目 | 金額の決まり方 | 経理側で見るポイント |
|---|---|---|
| 基本料金(ハーフ/フル) | ハーフ66,000円(税込)/フル132,000円(税込)。拘束時間は現地到着から撤収完了まで | 役務の対価。件数と枠数で検算できる |
| 延長 | 30分ごと(切り上げ)7,800円+税=8,580円 | 当日の実績で決まるため、発注部署に実績を確認する |
| 追加人員 | 進行アシスタント+33,000円(税込)/2カメ+132,000円(税込)/サブカメ+88,000〜110,000円(税込) | 事前見積りに載っている項目と一致するか照合する |
| 白ホリスタジオ(カメラマン所有) | 1時間22,000円(税込) | 使用時間で決まる。見積り段階で時間数が明示される |
| 諸経費(交通費・スタジオ代等) | 実費パススルー。運営会社の上乗せはない | 明細が添付される。立替の実費なので原価の性格が読み取りやすい |
諸経費を実費パススルーにしているのは、経理の照合を楽にするためでもあります。手数料を上乗せしていると、請求書の金額と実費の関係が読めなくなり、内訳の説明を求められるたびに往復が発生します。明細をそのまま添える形にしておけば、その往復がなくなります。
そして、見積りの段階で総額を提示します。撮影後に「別途◯◯円」という請求が出てこないので、予算計上した金額と請求額が一致します。稟議で通した金額と請求書がずれると、経理から発注部署に確認が入り、発注部署が慌てる。あの往復が起きません。稟議の通し方そのものは社内の稟議を通すための「撮影費用」の説明の仕方に、料金の内訳の考え方は企業撮影の相場を、内訳まで全部公開するにまとめてあります。
支払方法は請求書払い(銀行振込)がデフォルトです。振込手数料は発注側のご負担になります。カード決済は小口・単発向けのオプションとしてご用意しており、こちらの手数料は運営会社が負担します。初取引や大型案件では、着手金または前金をお願いする場合があります。
経理担当者のチェックリスト
撮影の請求書が回ってきたとき、次の8項目を上から確認すれば、判断の抜けが減ります。埋まらない項目だけを発注部署か顧問税理士に聞けば足ります。
- 支払先が個人か法人かを確認した(個人なら源泉徴収の検討に進む)
- 写真の使い道を確認した(印刷物に掲載するのか、Web掲載だけか)
- 撮影費が単独の行として請求されているか、制作費一式に含まれているかを確認した
- 一式で請求されている場合は、内訳の提示を依頼した
- 撮影日・納品日・検収日を確認し、社内の計上基準に当てはめた
- 期をまたぐ案件は、自社の計上基準が明文化されているかを確認した
- 用途と科目の対応表に照らし、前期の同種案件と同じ科目に置いた
- 適格請求書の記載事項がそろっているか、登録番号を確認した
このうち、上から4項目は発注部署に聞かないと分かりません。そこで効くのが、発注の段階で経理が1枚だけ資料を渡しておくことです。「撮影を発注するときは、請求書で撮影費を独立した行にしてもらってください」「支払先が個人になる場合は発注前に経理へ連絡してください」。この2行を発注ルールに入れておくだけで、期末の確認作業がかなり減ります。
発注部署の側でどこにコストがかかるかを知っておくと、この会話がスムーズになります。出張費・機材費・レタッチ費、追加請求されるのはどこまで妥当かは、請求書の各行が何を意味しているかを読むときの補助線になります。
まとめ|科目を探すより、扱いを決めて続けるほうが早い
撮影費用の勘定科目は、法令で決まっていません。だから正解を探しても見つからない。決めるのは、自社の科目体系のどこに置くかと、それを毎期続けられるかの2点です。用途と科目の対応表を1枚つくって運用するのが、いちばん早い解決になります。
そのうえで、経理が本当に押さえるべき論点は3つでした。第1に資産計上。撮影という役務そのものはその期の費用になるのが原則で、問題が起きるのは制作費に組み込まれているとき、印刷物として期末に残るとき、決算をまたぐときの3場面に絞られます。第2に期ズレ。撮影日・納品日・検収日のどれを基準にするかを社内で決めて、案件ごとにぶらさないことです。第3に源泉徴収。支払先が個人で、印刷物に掲載するための写真の報酬に当たる場合は、10.21%(100万円を超える部分は20.42%)を徴収し、徴収の日の属する月の翌月10日までに納付します。
著作権を買い取ったときに無形固定資産になるかという論点については、法人税法施行令第13条第8号の列挙に著作権が入っていないという事実までを材料として持っておいてください。そこから先の処理は、金額の大きさと自社の会計方針によって変わります。資産計上・期ズレ・源泉徴収のいずれも、自社の会計方針と、顧問税理士・所轄税務署にご確認いただくのが確実です。
最後に、経理側から発注部署に伝えられることを1つ。処理が難しくなる案件は、撮影の中身が特殊だからではなく、請求書が一式になっているから難しくなっています。発注の段階で内訳を分けてもらう。これだけで、期末の判断はかなり軽くなります。
この記事の次に読むと、判断が一段進みます
処理の型が決まったら、次は請求書が届く前の段階、つまり見積りと発注の設計です。
- 請求書の各行が何を意味するか読めるようになりたいとき:撮影見積書の読み方|どこを見れば適正か分かるか
- 予算を通すところから設計したいとき:社内の稟議を通すための「撮影費用」の説明の仕方
- 個人カメラマンへの発注で消費税の扱いを確認したいとき:インボイス制度で個人カメラマンへの発注はどう変わったか
- 金額の内訳が妥当かを判断したいとき:企業撮影の相場を、内訳まで全部公開する
請求書が一式で届くたびに内訳を確認している、という段階でしたら、見積りの時点で内訳を分けた形でお出しします。撮影日と場所、撮影する人数、写真を使いたい媒体をお知らせいただければ、どの枠が必要か、諸経費がいくらになるかまで書き出してお送りします。稟議や予算申請にそのまま添付できる形式でもお出しできますので、社内の比較材料にお使いください。
よくある質問
撮影費用は広告宣伝費で処理してよいですか
差し支えないことが多い、というのが実務の感覚です。撮影費用の勘定科目は法令で定められていないため、「広告宣伝費でなければならない」という決まりも「広告宣伝費では誤り」という決まりもありません。判断の軸は、自社の科目体系のどこに置くのが説明しやすいかと、その扱いを毎期続けられるかの2点です。前任者が広告宣伝費で通していたのであれば、その扱いを継続するほうが期間比較を崩しません。自社の会計方針との整合は、顧問税理士にご確認ください。
撮影費が10万円を超えたら資産計上が要りますか
金額だけで決まる話ではありません。10万円未満という基準を定めた法人税法施行令第133条第1項も、20万円未満の一括償却を定めた同令第133条の2第1項も、対象は減価償却資産です。カメラマンに撮影を依頼して受け取るのは役務であり、資産の購入ではありません。順番としては、まず「これは資産の取得なのか、役務の対価なのか」を判断し、資産の取得と整理された場合に金額基準を見る、という流れになります。判断に迷う請求書があれば、顧問税理士にご確認ください。
写真の著作権を買い取った場合、無形固定資産に計上するのですか
法人税法施行令第13条第8号が無形固定資産として列挙しているのは、鉱業権、貯留権、漁業権、ダム使用権、水利権、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、ソフトウエア、育成者権、公共施設等運営権、樹木採取権、漁港水面施設運営権、営業権、専用側線利用権などで、この列挙に著作権は入っていません。ただし、列挙にないことから直ちに全額を当期の損金にできると結論づけるのは飛躍です。金額が大きい買い取りや複数年にわたって使う前提の権利取得については、自社の会計方針を確認したうえで顧問税理士にご相談ください。
個人のカメラマンに支払うとき、源泉徴収は要りますか
支払う報酬がどの号に当たるかで決まります。所得税法第204条第1項第1号と所得税法施行令第320条第1項は、「雑誌、広告その他の印刷物に掲載するための写真」の報酬もしくは料金を対象として挙げています。税率は所得税法第205条第1号の100分の10に復興特別所得税(復興財確法第28条第1項・第2項の100分の2.1)を加えた10.21%で、同一人に一回に支払う金額が100万円を超える部分は20.42%です。納付期限は徴収の日の属する月の翌月10日。ただし、撮影料がすべて第1号に当たるとは限らず、Web掲載のみの撮影の扱いは判断が分かれるため、顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
3月末に撮影して4月にデータが届いた場合、どちらの期の費用になりますか
社内で決めた計上基準によります。法人税法施行令第14条第2項は前払費用を、継続的に役務の提供を受けるために支出する費用のうち、支出日の属する事業年度終了の日においてまだ提供を受けていない役務に対応するものと定義しています。判断の軸は「期末時点で役務の提供を受け終わっているか」です。撮影の場合、撮影日・納品日・検収日の3つが候補になります。どれを選ぶかよりも、選んだ基準を明文化して案件ごとにぶらさないことが大切です。基準の設定は、自社の会計方針と顧問税理士にご確認ください。
