社内の稟議を通すための「撮影費用」の説明の仕方
結論から言うと、撮影費用の稟議が止まるのは金額が高いからではなく、稟議書の「目的」と「費用対効果」の欄が写真の話のまま書かれているからです。決裁者が見ているのは撮影の中身ではなく、その支出で何が解決するか、他と比べたか、失敗したらどうなるかの3点です。この記事では、見積書を出す側から、稟議書の欄ごとにそのまま社内資料へ転記できる粒度で書き方を示します。
撮影費用の稟議が通らないのは、金額が高いからではない
APPROVAL DRAFT

稟議書は、担当者が決裁権を持つ人に対して、支出の目的・金額・効果・リスクを書面で説明し、承認を得るための社内文書です。撮影費用の稟議で差し戻される理由の多くは、金額そのものではなく、この4つのうち「目的」と「効果」の欄が、社内の課題ではなく撮影の中身で埋まっていることにあります。
撮影費用が他の費目より通りにくい理由は3つあります。効果が数字で出しにくいこと、社内に相場の物差しがないこと、そして今の写真でも一応ページが成立しているため「なくても困らない支出」に見えることです。
この3つは、金額を下げても解消しません。むしろ削った分だけ「その程度の必要性なら来期でいい」と読まれます。手を入れるべきなのは金額ではなく書き方のほうです。決裁者が見ている3点に答える形へ欄の中身を入れ替えると、同じ金額のままでも決裁は進みます。
稟議書の項目ごとに、撮影費用をどう書き分けるか
稟議書の様式は会社ごとに違いますが、決裁者が読む観点はおおむね共通しています。件名・目的・実施内容・費用・費用対効果・比較検討・リスクと対応・実施時期・支払条件の9項目です。それぞれの欄で決裁者が何を見ているのかと、撮影費用の場合に書く内容を表にします。右列を自社の状況に置き換えれば、稟議書の下書きはほぼ埋まります。
| 稟議書の項目 | 決裁者が見ているところ | 撮影費用の場合に書く内容 |
|---|---|---|
| 件名 | 何の支出かが一行で分かるか | 「採用サイト用 社員写真撮影の実施について」のように用途を入れる |
| 目的 | なぜ今それが要るのか | 写真がない・古いことで今起きている不具合を1つに絞って書く |
| 実施内容 | 何をどこまでやるのか | 撮影対象・人数・場所・所要時間・納品物を具体的な数で書く |
| 費用(総額) | 総額と、あとから追加が出ないか | 税込総額と内訳、実費の扱い、追加費用が発生する条件を書く |
| 費用対効果 | 支出に見合う戻りがあるか | 1名あたり・1年あたりの単価換算と、社内対応した場合の工数 |
| 比較検討 | 他と比べたうえで選んだのか | 同条件で取った相見積りと、金額だけではない選定理由 |
| リスクと対応 | 失敗したときにどうなるか | 中止・延期、撮影者が来られない場合、仕上がり不一致への対応 |
| 実施時期 | いつまでに決める必要があるか | 決裁期限と、過ぎると何が間に合わなくなるかをセットで書く |
| 支払条件 | 経理処理が問題なく通るか | 請求書払いかカード決済か、インボイス登録の有無、支払時期 |
9つのうち、撮影費用の稟議でつまずくのは目的・費用対効果・比較検討・リスクと対応の4つに集中します。実施内容や実施時期は事実を書けば済みますが、この4つは書き手が「社内の言葉」に翻訳しないと埋まりません。ここからは、その4つを順に見ていきます。
「目的」欄は写真の話ではなく、解決する課題から書く
目的欄には、撮影の内容ではなく「写真がない・古いことで、今どんな不具合が起きているか」を1つに絞って書きます。撮影は手段であって目的ではないので、手段を目的欄に書くと、決裁者からは「その手段が要る理由」が見えません。差し戻しの一言でいちばん多い「本当に要るのか」は、この欄への指摘です。
たとえば「採用サイトリニューアルに伴う写真撮影のため」は、何をするかは分かりますが、なぜ今なのかが分かりません。課題側から書き直すと、「新卒採用サイトに掲載している社員写真が◯年前の撮影で、すでに在籍していない社員が◯名含まれている。応募検討者が最初に見る画面の情報が実態と異なる状態を解消する」となります。◯には自社の実数を入れてください。数が入るだけで、決裁者の側は状況を検算できるようになります。
不具合を1つに絞るのがコツです。「古い」「暗い」「統一感がない」と並べたくなりますが、理由を増やすほど1つあたりの切実さは薄まります。写真と応募検討者の判断の関係を社内で補足するときは、採用サイトの写真で、応募数は本当に変わるのかを背景資料として添えてください。なお、撮った写真を会社案内や説明会資料にも使う予定があるなら、その用途も目的欄に書いておきます。用途が1つの支出と、複数に効く支出とでは受け取り方が変わります。
「費用対効果」欄は、単価換算と代替コストの2本立てで書く
費用対効果の欄は、根拠のない予測数値を書かないことから始めます。「応募数が◯%増える見込み」と書けば決裁者は根拠を尋ねますし、答えられなければ稟議は戻ってきます。代わりに使うのは、単価換算・使用期間・社内で対応した場合の工数という、今ある数字で計算できる3つの材料です。
単価換算は、総額を人数で割るだけです。私たちの料金でいえば、社員10名のプロフィール撮影のモデルケースは165,000円(税込)で、10名で割れば1名あたり16,500円。50名のモデルケースは220,000円(税込)で、1名あたり4,400円です。総額の16万円は決裁者にとって判断しづらい数字ですが、1名あたり16,500円にすると社内の他の支出と比べられます。人数が増えるほど1名あたりが下がる構造も、まとめて撮る理由としてそのまま書けます。料金表は料金ページで公開しているので、稟議書に添付する参考資料に使えます。
使用期間で割る方法もあります。撮影した写真を3年使う前提なら、165,000円は年あたり55,000円です。ただし耐用年数や資産計上の話と混同しないよう、社内で説明するための割り算であって会計処理は経理の判断に委ねる、と一言添えておくと安全です。
3つ目の材料が、社内で対応した場合の工数です。「社員が撮ればいい」という代替案は決裁の場でほぼ出るので、感情的に否定せず時間で答えます。段取り・当日の立ち会い・選別・補正・書き出しにかかる社内工数を時間で見積もり、担当者の時間単価をかけて並べる。金額が近い場合でも、外注すれば本来の業務が止まらないという差が残ります。撮影費用に何が含まれているのかは、企業撮影の相場を、内訳まで全部公開するを物差しにしてください。
ここまでを踏まえて、欄ごとに「差し戻されやすい書き方」と「決裁が進みやすい書き方」を並べます。左列と右列で、書いている事実は変わっていません。変えているのは、決裁者が判断に使える形になっているかどうかだけです。
| 稟議書の欄 | 差し戻されやすい書き方 | 決裁が進みやすい書き方 |
|---|---|---|
| 件名 | 写真撮影費について | 採用サイト用 社員写真撮影(10名)の実施について |
| 目的 | 採用サイトリニューアルに伴う写真撮影のため | 採用サイトの社員写真を現在の在籍者に更新し、掲載情報と実態の不一致を解消する |
| 費用 | 撮影費用一式 165,000円 | 撮影費用 165,000円(税込・社員10名/1名あたり16,500円)。交通費などの実費は別途、実費精算 |
| 費用対効果 | 採用力の強化と応募数の増加が見込まれる | 1名あたり16,500円。3年使用する前提で年あたり55,000円。社内対応した場合の工数は約◯時間で、時間単価に換算すると◯円 |
| 比較検討 | 3社から見積りを取得し、最も安価な1社を選定 | 人数・時間・カット数・使用範囲を同条件に揃えて3社に依頼。金額差の理由と当日の代替体制の有無を併記して選定 |
| リスクと対応 | 特になし | 当日中止時の費用の扱い、撮影者が来られない場合の代替体制、仕上がりが想定と異なる場合の再撮影条件を確認済み |
| 実施時期 | 決裁後、随時 | 決裁後◯日で日程確定、撮影後7日ほどで納品。公開日◯月◯日から逆算し、◯月◯日までの決裁が必要 |
相見積りは「3社並べる」より「同じ条件で揃える」
比較検討の欄で見られているのは、見積りを何社取ったかではなく、比べられる形で取ったかどうかです。社内規程に本数の定めがなければ3社が扱いやすい本数ですが、条件が揃っていない3社を並べても金額差の理由を説明できません。説明できない金額差は、そのまま「もっと安いところがあるのでは」という差し戻しになります。
撮影の見積りは、同じ「1日撮影」でも含まれる範囲が事業者ごとに違います。揃える指定項目と、揃えないと何がずれるのかを表にします。依頼メールにこの項目をそのまま書いて送れば、返ってきた見積りは並べて比較できる状態になります。
| 相見積りで指定する項目 | 揃えないと何がずれるか |
|---|---|
| 撮影人数と撮影対象 | 1名あたりの単価が比較できず、費用対効果欄が書けない |
| 撮影時間・現場の拘束時間 | 半日と1日で総額が変わる。延長料金の有無も見えない |
| 納品カット数と選定方法 | 全カット納品か選抜納品かで作業量が変わる |
| レタッチ(補正)の範囲 | 色補正のみか、人物の補正まで含むかで金額が動く |
| 納品形式と納期 | 短納期対応が別料金になることがある |
| 写真の使用範囲と使用期間 | 二次利用の可否で権利の扱いと金額が変わる |
| 交通費・出張費の扱い | 実費精算か込みかで、総額の比較そのものがずれる |
| 当日中止・延期時の費用 | キャンセル規定は見積書に書かれず、リスク欄が埋められない |
そのうえで、比較検討の欄には「最も安価だったから」以外の選定理由を1行入れてください。安い見積りが安い理由は、たいてい含まれる範囲が狭いことにあります。あとから実費や追加費用が乗って決裁済みの金額を超えると、再申請という最も避けたい展開になります。何が隠れやすいかは撮影の見積もりが安すぎるとき、そこに隠れている6つのコストにまとめています。
もう一つ、撮影会社・個人カメラマンへの直接依頼・撮影エージェントは、そもそも値づけの単位が違うため、金額をそのまま並べても比較になりません。3者が何を含んだ金額なのかは撮影会社と個人カメラマンとエージェント、どう違うのかで比較表にしているので、「単に安い順で選んだのではない」ことを示す根拠として使えます。
「リスク・懸念」欄には、決裁者が聞きたいことを先に書く
リスク欄に「特になし」と書くと、決裁者は自分で考え始めます。そこで出てくる質問は、たいてい担当者がまだ発注先に確認していない項目です。ここは空欄を埋める作業ではなく、想定される質問を先回りして潰しておく欄だと考えてください。先に書いてあるリスクは、書いた人が把握している証拠になります。
撮影費用の稟議で、決裁者から出やすい懸念は次の7つです。稟議書を出す前に発注先へ確認し、回答をそのままリスク欄に転記してください。
- 撮影が中止・延期になった場合の費用の扱いを、発注先に確認して書いたか
- 当日カメラマンが来られなくなった場合に、代替を立てられる体制かを確認して書いたか
- 仕上がりが想定と違ったときの再撮影・再補正の条件を確認して書いたか
- 撮影した写真の著作権の扱いと、使える媒体・期間の範囲を書いたか
- 社員の肖像の利用について、社内でどう同意を取るかを書いたか
- 撮影日に業務を止める時間(1名あたりの拘束時間と、合計の社内工数)を書いたか
- 追加費用が発生する条件(撮影時間の延長、カット追加、短納期対応)を書いたか
あとから問題になりやすいのが、著作権と使用範囲、そして社員の肖像の同意です。撮影は「頼んで、撮って、データをもらう」で完結してしまうため、書面の取り決めがないまま進むことがあります。採用サイト用に撮った写真を翌年の会社案内に使いたくなったとき、根拠になる書面がないと社内で止まります。私たちは業務委託契約とNDAの標準雛形に著作権譲渡の条項を入れていますが、自社の要件に合うかは法務の確認を前提にしてください。
もう一つ、リスク欄には書きにくい、担当者本人にとって現実的なリスクがあります。仕上がりが期待と違ったときに、社内で発注者が責められる展開です。稟議段階でイメージのすり合わせ方法と確認のタイミングを書いておくと、かなり避けられます。実際にどう詰められるのかは発注担当者が社内で詰められる「写真の失敗」あるあるに整理しています。
社内規程と会計処理について
決裁金額の基準、相見積りの必要本数、勘定科目(広告宣伝費・採用費など)の選び方、資産計上の要否は、会社ごとに規程が異なります。ここで示しているのは稟議書という文書の組み立て方であり、会計・税務上の処理は自社の経理担当や顧問税理士の確認を前提にしてください。
稟議が差し戻されたとき、どこを直すか
差し戻されたときは、金額から手をつけないでください。まず、返ってきた一言がどの欄への指摘なのかを特定します。撮影費用の稟議で返ってくる言葉はだいたい3種類で、それぞれ直すべき欄が決まっています。欄を特定せずに全体を書き直すと、同じ理由でもう一度戻ってきます。
「本当に要るのか」は目的欄への指摘です。写真がないことで今起きている不具合が伝わっていないので、手段の説明を削り、不具合を1つに絞って数を入れて書き直します。「高くないか」は費用対効果と比較検討の欄です。総額のまま置いてあると高く見えるので、1名あたり・1年あたりに割り、同条件で取った相見積りと選定理由を添えます。「今じゃなくていいのでは」は実施時期の欄です。決裁期限と、それを過ぎると何が間に合わなくなるかを、逆算した日付で書きます。
私は元々カメラマンとして企業の撮影を受けていました。当時、見積書を出したあとに「社内で確認します」と言われたきり、二か月ほど動かない案件がいくつもありました。あるとき担当の方に理由を尋ねたところ、金額に不満があったわけではなく、稟議書の費用対効果の欄が埋められないまま机の上で止まっていた、ということでした。私の見積書には撮影料と実費しか書いておらず、「何のために撮るのか」は担当者の頭の中にしかなかったのです。エージェントを始めてからは、見積書に用途・想定する使用媒体・使用期間を書き添えるようにしました。同じ金額でも、社内で説明できる形になっているかどうかで、決まる速さがはっきり変わります。
稟議に添える見積書が要る、という段階でしたら、用途・撮影人数・撮影場所・希望時期をお聞かせください。社内資料にそのまま転記できるよう、内訳と実費の扱い、追加費用が発生する条件まで書いた見積書をお出しします。稟議が通ってから日程を決める前提でも構いません。
稟議は説得ではなく、社内の言葉への翻訳
撮影費用の稟議は、決裁者を説得する作業ではありません。発注先から受け取った情報を、社内で判断できる形に翻訳する作業です。見積書に書いてあるのは撮影料と実費ですが、稟議書に要るのは「その支出で何が解決するか」「他と比べたか」「失敗したらどうなるか」。同じ案件の同じ金額でも、この3点に答える形へ置き換えれば通り方が変わります。金額を削る前に、欄の中身を書き換えてみてください。
私たちD-STYLE ARTは、企業専門の出張撮影エージェントです。運営は株式会社ファーストブレイク(横浜市中区)、代表の私・宮崎大地は元カメラマンです。2012年の創業から、法人とのお取引は300社を超えました。全国に厳選した30名程度の登録カメラマンから用途に合う人を選んでアサインし、契約・当日の進行管理・納品までを窓口として引き受けています。稟議に添えやすいよう、基本料金は1名55,000円、2名99,000円、3名以上は要見積り(いずれも税込)、撮影料は人数帯とグレード別という形で公開しています。お支払いは請求書払い(銀行振込)とオンラインカード決済に対応し、インボイスの登録番号はT2020001106718です。写真の納期は撮影後7日ほど、対応エリアは全国です。
よくある質問
撮影費用の稟議はどうすれば通りますか
金額を下げるより先に、稟議書の「目的」と「費用対効果」の欄を、撮影の話から社内の課題の話へ書き換えるのが近道です。写真がない・古いことで今起きている不具合を1つに絞り、総額を1名あたりや1年あたりに割って示します。決裁者が見ているのは撮影の中身ではなく、その支出で何が解決するか、他と比べたか、失敗したらどうなるかの3点です。
撮影費用の費用対効果は、稟議書にどう書けばいいですか
応募数や売上の増加率のような、根拠のない予測数値は書かないでください。代わりに単価換算・使用期間・社内で対応した場合の工数の3つで書きます。たとえば社員10名のプロフィール撮影のモデルケースは165,000円(税込)で、1名あたりに割ると16,500円です。50名のモデルケースは220,000円(税込)で、1名あたり4,400円になります。
撮影の相見積りは何社取ればいいですか
社内規程に定めがなければ3社が扱いやすい本数です。ただし本数より、条件が揃っているかのほうが重要です。撮影人数・拘束時間・納品カット数・補正の範囲・納期・使用範囲・交通費の扱い・当日中止時の費用を同じ文面で伝えて依頼すると、金額差の理由まで稟議書に書けます。
稟議書に書く撮影費用の総額は、どこまで含めればいいですか
撮影料と基本料金に加えて、交通費などの実費と、追加費用が発生する条件まで含めて書いてください。あとから実費が乗って決裁済みの金額を超えると、再申請になります。私たちの場合、基本料金は1名55,000円、2名99,000円、3名以上は要見積り(いずれも税込)で、諸経費は実費・端数切り上げという扱いです。
稟議が差し戻されたときは、どこを直せばいいですか
金額から手をつけず、差し戻しの一言がどの欄への指摘かを特定してください。「本当に要るのか」は目的欄、「高くないか」は費用対効果と比較検討の欄、「今じゃなくていいのでは」は実施時期の欄への指摘です。欄を特定しないまま全体を書き直すと、同じ理由でもう一度戻ってきます。
