結論から言うと、フリーランスのカメラマンに支払う撮影費の期限は、請求書を受け取った日でも検収が終わった日でもなく、給付を受領した日(役務の提供を受けた日)から起算して60日以内です。社内の支払サイトが「月末締め翌々月末払い」になっている会社では、月初に撮影した分がこの上限を1か月ほど超えます。直すのは締め日と、発注書に書く支払期日の書き方だけです。
撮影費の支払期日は「役務の提供を受けた日」から60日以内|請求書の到着日は起算日にならない
PAYMENT DEADLINE RULE

フリーランス・事業者間取引適正化等法(正式名称は特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律。通称フリーランス新法)は、2024年11月1日に施行されました。この法律が発注事業者に課しているのは、取引条件の明示、期日における報酬支払、禁止行為の回避、募集情報の的確表示、育児介護等との両立への配慮、ハラスメント対策の体制整備、中途解除等の事前予告という7つの義務です。この記事で扱うのは、そのうち第4条の「期日における報酬支払義務」だけに絞ります。
第4条が定めているのは、報酬の支払期日を、給付を受領した日(役務の提供を受けた日)から起算して60日以内の、できる限り短い期間内に定めること。この一文の中で実務がつまずくのは「起算日はどこか」と「60日をどう数えるか」の2点です。起算日は請求書を受け取った日ではありません。検収が完了した日でもありません。カメラマンから仕事の成果を受け取った日、または撮影という役務の提供を受けた日です。
この記事は、撮影を発注する部署の担当者と、その支払処理をする経理担当者の両方に向けて書いています。特に読んでほしいのは、「支払サイトは経理が決めているから自分には関係ない」と思っている発注担当者です。支払期日を決めて相手に伝えるのは、発注の時点で発注側が果たす義務だからです。
第3条の取引条件の明示義務では、発注時に明示する事項のひとつとして「報酬の額および支払期日」が挙げられています。額の記載が難しい場合は算定方法でもよいとされていますが、支払期日については具体的な支払日を特定できる形で書く必要があります。つまり、支払期日は経理が後から決める項目ではなく、発注担当者が発注書やメールに書いて相手に渡す項目です。社内の既定の支払サイトをそのまま書き写した結果、法律が求める上限を超えていた、という形で問題が起きます。
もうひとつ押さえておきたいのが、対象になる発注側の範囲です。第4条の支払期日の義務がかかるのは「特定業務委託事業者」で、これは従業員を使用している個人事業主、または二人以上の役員がいるか従業員を使用している法人を指します。一般的な企業はここに該当します。しかもこの義務には期間要件がありません。半年契約でも、1日だけの単発の撮影でも、同じようにかかります。1日で終わる採用サイト用の撮影だから対象外、という考え方は成り立ちません。
なお、この記事は公正取引委員会が公表しているパンフレットの内容をもとにした一般的な整理です。自社の契約形態や取引の実態によって当てはめは変わります。社内ルールを変える前に、法務部門や顧問弁護士にご確認ください。あわせて、消費税のインボイス制度は別の法律の話です。登録番号の有無や仕入税額控除の処理についてはインボイス制度で個人カメラマンへの発注はどう変わったかにまとめてあります。支払期日の話と混ぜないほうが、社内の整理は速く進みます。
撮影で「役務の提供を受けた日」はいつか|撮影日とデータ納品日のどちらか
撮影の場合、起算日が撮影日になるか納品日になるかは、契約で定めた給付の内容によって判断が変わります。ここは一律に決められる部分ではありません。だからこそ、発注書に書く給付の内容と受領期日の書き方が効いてきます。
考え方の目安として、次のように分けて整理すると社内の議論が進みます。カメラマンに委託したのが「撮影当日にシャッターを切ること」までであれば、役務の提供を受けたのは撮影日です。一方、委託したのが「撮影し、セレクトとレタッチを行い、データを納品するところまで」であれば、その一連の給付が完了するのは納品日側に寄ります。同じ撮影費でも、発注書に何と書いたかで起算日の位置が動く、ということです。
| 発注書に書いた給付の内容 | 起算日の考え方 | 実務で起きやすいこと |
|---|---|---|
| 撮影当日の立会い・撮影のみ(データは別途) | 撮影日側に寄る | 撮影から納品まで日数が空くと、支払期日が納品直後に来る |
| 撮影+セレクト+レタッチ+データ納品まで一式 | 一連の給付が完了する納品日側に寄る | レタッチのやり直しで納品日が動くと起算日も動く |
| 月ごとの継続撮影を基本契約で受けている | 個別の撮影ごとに受領日を見るのが基本 | 月まとめ請求にすると、月初の撮影分が最も期限に近い |
ここで注意したいのが、検収日を起算日だと思い込んでいるケースです。第3条の明示事項には「検査をする場合は検査を完了する期日」という項目が別に用意されています。検査完了期日は明示すべき事項のひとつであって、支払期日の起算日そのものではありません。社内の支払フローが「検収完了 → 請求書受領 → 翌月末払い」で組まれていると、検収が長引いた分だけ支払が後ろにずれ、受領日から数えた日数が知らないうちに伸びます。
私は元カメラマンとして企業から直接撮影を受けていた時期があります。当時よくあったのが、撮影から3週間かけてレタッチを仕上げ、納品してから請求書を送り、そこから社内の検収と締め日を待つという流れでした。撮影日から数えると、入金までに3か月近くかかった仕事もあります。当時は「そういうものだ」と思っていましたが、いま同じ条件を発注書に書くと、給付の内容の書き方次第では期限を超えます。悪意があってそうなっていたわけではなく、撮影日と納品日と検収日と締め日が、それぞれ別の担当者の頭の中にあっただけでした。
起算日を社内で確定させるための一手
発注書に、給付の内容(どこまでを委託したか)と、給付を受領しまたは役務の提供を受ける期日を並べて書いてください。この2つが書かれていれば、支払期日をいつから数えるかが社内の誰から見ても同じになります。逆にこの2つがないと、経理は請求書の日付から数え、発注担当者は撮影日から数え、カメラマンは納品日から数える、というずれが起きます。個別の当てはめについては、契約書の文言と実際の取引の流れをそろえて法務部門または顧問弁護士にご確認ください。
発注書そのものが存在しない状態で撮影を頼んでいる場合は、支払期日より先に整理すべき論点があります。データの権利や納期の合意まで含めて、口約束で起きやすい行き違いは撮影発注のトラブル事例集|納期・データ・著作権にまとめています。
支払期日は「具体的な日を特定できる」書き方でなければ、定めたことにならない
支払期日は、具体的な日を特定できるように定める必要があります。公正取引委員会のパンフレットでは、「●月●日まで」「●●日以内」という書き方は、いつが支払期日か特定できないため支払期日を定めたと認められない、と違反例として示されています。一方で「●月●日支払」「毎月●日締切、翌月●日支払」は問題のない書き方として挙げられています。
| 発注書・見積書での書き方 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 2027年5月31日支払 | 問題のない書き方 | 支払日が1日に特定できる |
| 毎月末日締切、翌月末日支払 | 問題のない書き方 | 締切と支払日の組み合わせで日が特定できる |
| 2027年5月31日まで | 定めたと認められない | 「まで」だといつが支払期日か特定できない |
| 納品後30日以内 | 定めたと認められない | 「以内」だと支払日が1日に定まらない |
| 請求書受領後60日以内 | 定めたと認められない | 「以内」であることに加え、起算日が請求書の到着日になっている |
実際の撮影の発注書で最も見かけるのが、表の下2行です。「納品後30日以内にお支払いします」という書き方は、発注側としては誠実に短い期間を示したつもりでも、支払期日を定めた形にはなりません。同じ内容を「納品月の末日締切、翌月末日支払」と書けば、日が特定できる形になります。書き換えのコストは一文だけです。
もうひとつ、「請求書受領後」を起算点に置く書き方は、二重に問題を抱えます。日が特定できないことに加えて、起算日が法律の定めとずれます。カメラマンが請求書を出すのが遅れれば支払も遅れる、という運用になっていると、受領日から数えた日数は発注側が管理できないところで伸びていきます。請求書の到着を待たずに支払期日を確定させる書き方に変えるのが、実務としていちばん軽い直し方です。
支払条件は、見積書の段階で目に入っています。見積書のどこを見れば発注前に条件を確認できるかは撮影見積書の読み方|どこを見れば適正か分かるかに整理してあります。見積書の支払条件欄と発注書の記載がそろっているかを発注の直前に一度見るだけでも、後戻りは減ります。
「月末締め翌々月末払い」は撮影費で何日超過するか|具体日で計算する
4月1日に撮影した分を「月末締め翌々月末払い」で支払うと、支払日は6月30日になります。撮影日を1日目として数えると91日目です。パンフレットでは、月単位の締切制度を採る場合、毎月末日締切にするなら翌月末日までに支払期日を設定する必要がある、と示されています。この基準に照らすと上限は5月31日で、6月30日はそこから1か月遅れています。
自社の支払サイトを当てはめるとどうなるか、4月1日に撮影した場合で並べます。日数は撮影日を1日目として数えたものです。
| 社内の支払サイト | 4月1日撮影分の支払日 | 撮影日から数えた日数 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 月末締め・翌月10日払い | 5月10日 | 40日目 | 問題なし |
| 月末締め・翌月末払い | 5月31日 | 61日目 | 問題なし(後述の2か月の数え方による) |
| 月末締め・翌々月10日払い | 6月10日 | 71日目 | 上限(翌月末日)を超える |
| 15日締め・翌々月15日払い | 6月15日 | 76日目 | 上限を超える |
| 月末締め・翌々月末払い | 6月30日 | 91日目 | 上限を1か月超える |
同じ「月末締め翌々月末払い」でも、締切期間のどこで撮影したかによって日数は変わります。4月15日の撮影なら6月30日まで77日目、4月30日の撮影なら62日目です。それでも支払サイト全体としては直す必要があります。締切期間のいちばん早い日、つまり4月1日の撮影分が上限を超えているからです。締め日と支払日の組み合わせを決めるときは、締切期間の初日を基準に見てください。
締め日が末日でない会社には、もうひとつ見落としがあります。たとえば「20日締め・翌月末払い」の会社で、4月21日に撮影した場合を考えます。この撮影は5月20日締めに入るので、支払日は6月30日です。4月21日から数えると71日目になり、上限を超えます。同じ支払サイトでも、4月1日の撮影なら4月20日締めで5月31日払いとなり61日目に収まります。締め日が末日でない場合、締切期間の初日は前月21日になる、という点を計算に入れる必要があります。
支払サイトを1か月早めると、社内の資金繰りの前提が変わります。この変更を通すための説明の組み立ては、撮影費の稟議と同じ構造です。金額と期日の根拠を数字で並べる書き方は社内の稟議を通すための「撮影費用」の説明の仕方にまとめています。
60日は「2か月」で数える|31日ある月も30日の月も同じ1か月
「受領後60日以内」は「受領後2か月以内」として運用するため、31日ある月も30日の月も同じく1か月として考えます。パンフレットに明記されている数え方です。これがあるので、実日数が61日や62日になる組み合わせでも、月をまたいだ2か月に収まっていれば問題として扱われません。
「月末締め・翌月末払い」の会社が、月初に撮影した分を支払う場合の実日数を並べます。撮影日を1日目として数えたものです。
| 撮影日 | 月末締め・翌月末払いの支払日 | 撮影日から数えた実日数 | 2か月の数え方での扱い |
|---|---|---|---|
| 1月1日 | 2月28日(平年) | 59日目 | 2か月以内 |
| 3月1日 | 4月30日 | 61日目 | 2か月以内 |
| 4月1日 | 5月31日 | 61日目 | 2か月以内 |
| 7月1日 | 8月31日 | 62日目 | 2か月以内 |
実日数は59日から62日までばらつきますが、どれも2か月という同じ枠で扱われます。社内で「61日だから1日オーバーではないか」と議論になったときは、この数え方を示せば止まります。逆に言えば、月末締め翌月末払いにしておけば、何月に撮影しても枠に収まる設計になります。
もうひとつ、法律が求めているのは「60日以内」だけではなく「60日以内のできる限り短い期間内」に定めることです。上限ぎりぎりに置くことが推奨されているわけではありません。60日という数字は、そこまでなら遅くてよいという意味ではなく、それより後ろには置けないという線です。
撮影の見積りは、内訳つきで無料です
用途・日程・場所をお知らせいただければ、拘束時間と人員の内訳が分かる見積りをお送りします。料金はハーフ(4時間枠)66,000円・フル(8時間枠)132,000円(税込)です。
支払期日が金融機関の休業日にあたるとき、翌営業日に順延できるか
順延できます。条件は2つあり、①順延する期間が2日以内であること、②金融機関の休業日にあたる場合は翌営業日に順延することを、あらかじめ書面または電磁的方法で合意していること。この2つを満たしていれば、結果として60日を超えても問題とされません。
具体的には、支払期日を5月31日と定めていて、その年の5月31日が土曜日にあたるケースです。翌営業日は6月2日の月曜日なので、順延期間は2日になります。あらかじめ合意していれば、この順延は問題になりません。合意がないまま発注側の判断で後ろにずらすと、順延の根拠がない状態になります。
もうひとつ、順延した後の支払期日が60日以内に収まっているなら、あらかじめ合意していれば順延期間が2日を超えても問題ありません。2日という制限がかかるのは、順延によって60日を超える場合の話です。上限ぎりぎりに支払期日を置かなければ、この論点そのものが発生しません。
合意の方法は書面でも電磁的方法でもかまいません。基本契約書か発注書のテンプレートに一文入れておけば足ります。カメラマン1人ずつに個別のメールで合意を取り直す運用にすると、担当者が変わったときに抜けます。
代理店・制作会社が撮影を再委託するときの特例|元委託支払期日から30日以内
広告代理店や制作会社が、元委託者から受けた業務の全部または一部をカメラマンに再委託する場合、支払期日を「元委託業務の対価の支払期日(元委託支払期日)から起算して30日以内のできる限り短い期間内」で定められる特例があります。クライアントからの入金前に、自社の持ち出しでカメラマンに支払わなければならない、という事態を避けるための仕組みです。
ただし、再委託であれば自動的に適用されるものではありません。適用するには、第3条の通常の明示事項に加えて、次の3つをカメラマンに明示する必要があります。
- その業務委託が再委託であること
- 元委託者の名称
- 元委託業務の対価の支払期日(元委託支払期日)
この3つを明示していなければ、通常どおり給付を受領した日から60日以内のルールが適用されます。逆に、再委託であっても特例を使わなければならないわけではありません。使うか使わないかは選べます。使うのであれば、元委託者の名称をカメラマンに開示することになる、という点は先に社内で確認しておいてください。守秘の都合で元委託者名を出せない案件では、この特例は使えません。
起算日の考え方も、通常のルールとは別に注意が必要です。起算日は、元委託者から実際に支払われた日ではなく、元委託者と自社の間で定められた支払の予定期日です。つまり、元委託者から予定より早く支払われたとしても、定めた期日までにカメラマンに払えば問題ありません。反対に、元委託者からの入金が遅れたとしても、それを理由にカメラマンへの支払を遅らせることはできません。入金遅延のリスクは、再委託した側が引き受ける形になります。
| 状況 | カメラマンへの支払期日の扱い |
|---|---|
| 3事項を明示していない | 特例は使えない。給付を受領した日から60日以内 |
| 3事項を明示している | 元委託支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内で定められる |
| 元委託者から予定より早く入金された | 定めた支払期日までに支払えばよい |
| 元委託者からの入金が遅れた | それを理由にカメラマンへの支払を遅らせることはできない |
| 元委託者から前払金を受け取った | カメラマンにも着手に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮が求められる |
最後の行は見落とされやすいところです。元委託者から前払金を受け取ったときは、カメラマンが撮影に着手するために必要な費用を前払金として支払うよう、適切な配慮が求められています。ロケハンの交通費、スタジオの押さえ金、機材のレンタル代など、撮影は着手の段階で先にお金が出ていく仕事です。前払金を受け取っておきながら、下流には従来どおりの支払サイトで通す、という運用は配慮を欠くことになります。
この特例は代理店や制作会社にとって現実的な救いになりますが、3事項の明示という手間は増えます。案件ごとに元委託支払期日が違うなら発注書に都度書くことになるので、社内の発注テンプレートを再委託用と直接発注用の2種類に分けるところまでセットで設計してください。
振込手数料をカメラマンの報酬から差し引いてよいか
報酬の減額に当たるおそれがあります。公正取引委員会のパンフレットには、報酬の減額の違反例として、出版社が記者に対して「報酬を銀行口座に振り込む際の手数料を記者に負担させ、報酬額から差し引いた」というケースが挙げられています。撮影費の振込でも構造は同じです。報酬の減額は、名目・方法・金額にかかわらず、あらゆる減額行為が禁止されています。フリーランス側の了解を得ていても、発注側に違法性の意識がなくても、違反になります。
ただし、期間要件は正確に押さえてください。報酬の減額を含む7つの禁止行為(受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直し)は、特定業務委託事業者が「1か月以上の業務委託」をする場合が対象です。支払期日の義務に期間要件がないのとは、ここが違います。
そのうえで、撮影は「1か月未満だから対象外」と言い切れる発注が意外と少ない仕事です。期間の数え方は、始期が第3条で明示する「業務委託をした日」、終期が「給付受領予定日」と「契約の終了日」のうち最も遅い日とされています。撮影日が1日でも、4月上旬に発注して5月中旬に納品予定なら、始期から終期までは1か月以上になります。撮影当日の拘束時間ではなく、発注から納品予定までの長さで見る、という点に注意してください。
あわせて、2026年1月1日に施行された中小受託取引適正化法(取適法。下請代金支払遅延等防止法から改称)でも、振込手数料を受託側に負担させることの禁止が改正点として入りました。取適法は適用の判定基準が別にあり、従来の資本金基準に加えて従業員数の基準が新設されています。撮影の発注がどちらの法律の対象になるかは、委託の類型と当事者の規模で決まる個別判断です。実務としては、振込手数料は発注側が負担する運用にそろえておくのが、判定の手間ごと省ける方法になります。
なお、振込手数料の話と、請求金額そのものの妥当性の話は別です。出張費や機材費、レタッチ費が請求書に並んでいて、どこまでが妥当なのか判断できないという場合は出張費・機材費・レタッチ費、追加請求されるのはどこまで妥当かを先に読んでください。金額に納得したうえで、支払期日と手数料の扱いを整える、という順番になります。
支払が遅れたとき、発注企業に何が起きるか|申出から勧告・命令まで
フリーランス側は、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省に申出ができます。その先の流れは、報告徴収・立入検査、指導・助言、勧告、命令・公表、という順です。命令に違反した場合は50万円以下の罰金が定められています。
ここで確認しておきたいのが、申出をしたことを理由に契約を解除したり、取引を停止したりする不利益な取扱いが禁止されている点です(報復措置の禁止)。「言ってきたら次から頼まない」という運用は、支払期日の問題とは別に、それ自体が問題になります。社内で誰かが口にしたら、その場で止めてください。
2026年2月には、支払期日を役務の提供を受けた日から60日を超えて設定していた事業者に対して勧告が行われた事例が報じられています。社名や業種の詳細は、確認できる一次情報の範囲を超えるのでここでは触れません。押さえておきたいのは、支払期日の設定そのものが指摘の対象になり得るという点です。支払が実際に遅れたかどうかではなく、契約や発注書で60日を超える期日を「定めていた」ことが問題として扱われています。
とはいえ、この話を社内で共有するときに、罰則から入るのはおすすめしません。実態として多いのは、悪意のある支払遅延ではなく、10年前から変わっていない社内の支払サイトをそのまま適用しているケースです。手形の時代から続いてきた締め日と支払日の組み合わせが、フリーランスへの発注にもそのまま流れているだけ、という会社が少なくありません。直すのは、締め日の設定と発注書の書き方の2つです。すでに60日を超える条件で進んでいる案件があるなら、次の発注から書き方を変え、継続中の契約は締め日の見直しに合わせて条件を改定していく、という順番で片付きます。
もうひとつ、実利の面から言えることがあります。支払条件は、カメラマン側が仕事を受けるかどうかを判断する材料のひとつです。腕のよい人ほど仕事の選択肢があり、支払が早く、条件が明確な会社を優先します。どういう発注企業がカメラマンから選ばれるかはカメラマンに断られる企業、選ばれる企業の違いに整理してあります。支払期日を短くするのは、法律への対応であると同時に、発注先の質を保つための投資でもあります。
「支払を早めると資金繰りがきつい」への現実的な打ち手
支払サイトを1か月縮めるという話は、経理から見れば運転資金の話です。「法律だからやってください」で押し切ると、社内で止まります。現実的な選択肢は3つあります。
- 締め日を月2回にする。月末締めの1本だけだと、月初に受領した分の余裕が最も少なくなります。15日締めと月末締めの2本にすると、締切期間の初日から支払日までが最長でも1か月半程度に収まり、支払日を大きく前倒ししなくても枠に収まります
- 請求書の到着を待たずに支払期日を確定させる。「請求書受領後」を起点にする運用をやめ、発注時に決めた支払期日で処理します。カメラマンからの請求書が遅れても支払日が動かないので、経理側の資金予測はむしろ立てやすくなります
- 手配会社経由にして、支払先を法人1社にまとめる。カメラマン個人への支払が発生しない形にすると、支払期日の管理対象が減ります
1つ目の締め日を月2回にする案は、地味ですが効き方が大きい打ち手です。月末締め翌々月末払いの会社が、いきなり翌月末払いに変えると、切り替え月に2か月分の支払が重なります。締め日を増やして支払日を分散させると、この山を小さくできます。経理に相談するときは「支払サイトを1か月縮めたい」ではなく「締め日を月2回にして、締切期間の初日から2か月以内に収めたい」と伝えるほうが、話が具体的になります。
2つ目の「請求書の到着を待たない」は、発注担当者だけで進められます。発注書に支払期日を書いた時点で日付が確定しているので、請求書は金額の確認と証憑としての役割に戻ります。実務上いちばん多いつまずきが、カメラマンが請求書を出し忘れて支払が数週間ずれることです。起算日は受領日なので、請求書が遅れても法律上の期限は延びません。
3つ目については、私自身の立場も含めて正直に書いておきます。手配会社を通すと支払先は法人1社になりますが、法人相手なら支払サイトを自由に伸ばしてよい、という話ではありません。手配会社の側では、実際に撮影したカメラマンへの支払期日の管理が引き続き発生します。発注側にとっての違点は、管理する契約の本数が減ることと、支払先が1本にまとまることです。カメラマン10人に個別発注していた会社が、10通の発注書と10件の支払期日を管理していた状態から、1通と1件に減る。効くのはそこです。撮影会社・個人カメラマン・エージェントで契約と請求の構造がどう変わるかは撮影会社と個人カメラマンとエージェント、どう違うのかで比較しています。
私が個人事業主として撮影を受けていた時代は、撮影から入金まで何か月も空くのが当たり前でした。撮影は3月、納品は4月、請求は4月末、入金は6月末。その間に機材のリース料も交通費も先に出ていきます。当時の発注企業に悪意があったかというと、まったくそんなことはなくて、社内の支払サイトがそうなっていただけです。逆に、支払が早い会社は本当に印象に残りました。次に声がかかったとき、日程を無理してでも空けようとするのは、そういう会社でした。
まとめ|直すのは締め日と、発注書の支払期日の書き方だけ
フリーランスのカメラマンへの報酬の支払期日は、給付を受領した日(役務の提供を受けた日)から起算して60日以内の、できる限り短い期間内に定めます。起算日は請求書を受け取った日でも検収日でもありません。撮影で受領日がいつになるかは契約で定めた給付の内容によって判断が変わるため、発注書に給付の内容と受領期日を書いておくことが土台になります。支払期日は「◯月◯日支払」「毎月◯日締切、翌月◯日支払」のように具体的な日を特定できる形で書き、「◯◯日以内」「◯月◯日まで」という書き方は使いません。60日は2か月として数えるので、月末締め翌月末払いなら実日数が61日や62日になっても枠に収まります。一方、月末締め翌々月末払いだと、4月1日撮影分の支払日が6月30日となり91日目、上限を1か月超えます。金融機関の休業日による順延は、2日以内かつあらかじめ書面または電磁的方法で合意していることが条件です。代理店・制作会社の再委託では、再委託である旨・元委託者の名称・元委託支払期日の3つを明示すれば、元委託支払期日から30日以内で定められます。振込手数料を報酬から差し引くことは報酬の減額に当たるおそれがあり、この禁止行為は1か月以上の業務委託が対象です。以上は公表資料をもとにした一般的な整理なので、自社への当てはめと社内規程の改定は、法務部門または顧問弁護士にご確認ください。
私たち日本プロカメラマン手配は、企業専門のカメラマン手配サービスです。運営は株式会社ファーストブレイク(横浜市中区)、代表の私・宮崎大地は元カメラマンです。2012年の創業から、法人とのお取引は300社を超えました。全国の登録カメラマンから用途に合う人を選んでアサインし、打ち合わせ、当日の進行のディレクション、納品までを窓口として引き受けています。ご契約とご請求は当社との間で1本にまとまるため、実際に撮影するカメラマンごとに発注書と支払期日を管理していただく必要はありません。カメラマンへの支払は当社が担います。料金は撮影人数ではなく拘束時間で組み立てており、ハーフ(半日・4時間枠)が60,000円+税=66,000円、フル(1日・8時間枠)が120,000円+税=132,000円です。延長は30分ごとに8,580円(税込・30分単位で切り上げ)。標準機材と商用利用権は基本料金に含まれ、諸経費(交通費・スタジオ代など)は実費のパススルーで当社の上乗せはありません。お支払いは請求書払い(銀行振込)が基本で、振込手数料は発注側のご負担でお願いしています。カード決済は小口・単発向けのオプションとしてご用意しており、こちらの決済手数料は当社が負担します。料金の内訳は料金ページで公開しています。
この記事の次に読むと、判断が一段進みます
支払期日の設計が決まったら、次は発注そのものの整え方です。
- 発注書も契約書もないまま撮影を頼んでいるとき:撮影発注のトラブル事例集|納期・データ・著作権
- 社内の紹介で「知り合いのカメラマン」に頼んでいるとき:「知り合いのカメラマン」に頼むリスクを冷静に整理する
- 年間の撮影発注をまとめて設計し直すとき:年間の撮影発注をまとめると、コストはどこまで下がるか
- 登録番号のない請求書の処理で手が止まったとき:インボイス制度で個人カメラマンへの発注はどう変わったか
カメラマン1人ずつに発注書を出し、支払期日を個別に管理するのが負担になっているという段階でしたら、窓口を1社にまとめる形もご検討ください。撮影日と場所、撮影する人数、写真の用途をお知らせいただければ、どの枠が必要か、諸経費がいくらになるかまで書き出してお見積りをお出しします。支払条件を含めた形でお送りできますので、社内の稟議や支払フローの確認にそのままお使いいただけます。
よくある質問
フリーランスのカメラマンへの支払期日は、いつから60日以内ですか
給付を受領した日、つまり役務の提供を受けた日から起算して60日以内です。請求書を受け取った日でも、検収が完了した日でもありません。撮影の場合、その日が撮影日になるか納品日になるかは、契約で定めた給付の内容によって判断が変わります。撮影当日の撮影までを委託しているのか、レタッチとデータ納品までを委託しているのかで位置が動くため、発注書に給付の内容と受領期日を書いておくことが実務上の土台になります。個別の当てはめは法務部門または顧問弁護士にご確認ください。
発注書に「納品後30日以内に支払う」と書けば支払期日を定めたことになりますか
なりません。支払期日は具体的な日を特定できるように定める必要があり、公正取引委員会のパンフレットでは「●月●日まで」「●●日以内」という書き方が違反例として示されています。いつが支払期日か特定できないためです。同じ内容でも「2027年5月31日支払」や「毎月末日締切、翌月末日支払」と書けば、日が特定できる形になります。また「請求書受領後」を起点にする書き方は、日が特定できないことに加えて起算日が法の定めとずれるため、避けてください。
社内の支払サイトが月末締め翌々月末払いです。撮影費でも問題になりますか
問題になるおそれがあります。4月1日に撮影した分の支払日は6月30日となり、撮影日を1日目として数えると91日目です。月単位の締切制度を採る場合、毎月末日締切なら翌月末日までに支払期日を設定する必要があるとされているため、上限は5月31日で、そこから1か月遅れる計算になります。4月15日撮影分は77日目、4月30日撮影分は62日目ですが、締切期間の初日である4月1日撮影分が超えているため、支払サイト全体として見直しが必要です。
代理店が撮影を再委託する場合、支払期日はどう定めればよいですか
3つの事項を明示すれば、元委託支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内で定められます。明示が必要なのは、再委託であること、元委託者の名称、元委託業務の対価の支払期日の3つで、これらは通常の明示事項に加えて示します。起算日は元委託者から実際に入金された日ではなく、元委託者との間で定められた支払の予定期日です。元委託者からの入金が遅れたことを理由に、カメラマンへの支払を遅らせることはできません。3事項を明示していない場合は、通常どおり受領日から60日以内が適用されます。
振込手数料をカメラマンの報酬から差し引いてもよいですか
報酬の減額に当たるおそれがあります。公正取引委員会のパンフレットには、振込手数料を記者に負担させて報酬額から差し引いた出版社の例が、報酬の減額の違反例として挙げられています。報酬の減額は名目・方法・金額にかかわらず禁止されており、相手の了解を得ていても違反になります。ただしこの禁止行為には期間要件があり、対象は1か月以上の業務委託です。期間は業務委託をした日から、給付受領予定日と契約終了日のうち遅い日までで数えるため、撮影日が1日でも発注から納品までが1か月以上あれば対象になります。
