結論から言うと、法務が個人カメラマンとの直接契約に止めをかけるのは、そのカメラマンの腕を疑っているからではありません。止まる理由のほとんどは、著作権の帰属、フリーランス新法上の義務、源泉徴収と印紙の判定、秘密保持、この4つが契約書に書かれていないことです。裏返せば、書けば通る余地があります。この記事では、法務が実際に見ている審査項目を1つずつ翻訳します。
個人カメラマンとの直接契約が法務からNGを出される理由は、人ではなく契約書にある
LEGAL REVIEW POINTS

「いいカメラマンを見つけたので直接お願いしたい」と稟議に上げたら、法務と購買から差し戻された。この記事は、そういう経験をした、あるいはこれから通そうとしている広報・人事・総務・管理部門の方に向けて書いています。
差し戻しの理由は、たいてい「リスクがあるので」の一言で返ってきます。何のリスクなのかが説明されないまま止まるので、現場は「法務が保守的だから」と受け取ってしまう。けれど法務が見ているのは、カメラマンの人柄でも作品でもありません。契約書が会社を守る形になっているかどうかです。そこには相応の正当性があります。
私は元カメラマンで、いまは企業専門のカメラマン手配サービス「日本プロカメラマン手配」を運営しています。撮る側として発注書を受け取っていた時期と、受注側として企業の法務レビューを何十回も通してきた時期の両方があります。撮る側にいたころは、契約書の細かい条項を「形式的なもの」だと思っていました。手配する側に回ってから、あの条項の一つひとつが、止まる理由をあらかじめ潰すために置かれているのだと分かりました。
以下は、法令の条文と行政が公表している資料をもとにした一般的な整理です。自社の取引がどの規定の対象になるか、その契約書で足りるかどうかは、契約の形・期間・写真の用途によって変わります。最終的な当てはめは、法務部門または顧問弁護士にご確認ください。
法務が撮影の直接契約で見ている審査項目は、おおむね次の6つに整理できます。
| 審査項目 | 法務が確認していること | 差し戻しの典型的なコメント |
|---|---|---|
| 1. 契約主体の与信・存続性 | 取引先として登録できる相手か。撮影当日に来られなくなったときの代わりがいるか | 「新規取引先の審査書類を出してください」 |
| 2. 著作権の帰属 | 撮った写真を、会社がどこまで使えるのか。使える範囲が契約書に書かれているか | 「著作権の取り扱いが不明確です」 |
| 3. フリーランス新法・取適法上の義務 | 取引条件の明示、報酬の支払期日、禁止行為の管理が回るか | 「支払サイトが社内規程と合いません」 |
| 4. 源泉徴収・インボイス・印紙 | 経理側で必要な手当てが漏れないか | 「経理と税務の確認が先です」 |
| 5. 労働者性 | 現場での指示の出し方が、業務委託の形と食い違っていないか | 「指揮命令の実態が出ないようにしてください」 |
| 6. 秘密保持・情報管理 | 社内に人を入れ、データを外部に置くことの管理ができるか | 「NDAを締結してからにしてください」 |
この6つはどれも、撮影という業務そのものに固有の論点ではありません。外部の個人と直接契約するとき、会社が一般に確認する項目です。ただ撮影は、著作物が生まれ、社内に人が入り、被写体に社員の顔が写るという点で、6つ全部に同時に当たってしまいます。だから止まりやすいのです。
審査項目1|契約主体としての与信・存続性:代わりがいない発注は止まりやすい
個人事業主を新規取引先として登録するとき、多くの会社は法人相手と同じ審査フローを通します。反社会的勢力でないことの確認、取引先登録、支払口座の登録、与信の判断。ここは法令というより社内規程の話ですが、現場から見ると最初にぶつかる壁です。
撮影で固有に効いてくるのが、代替の効かなさです。撮影日は動かせないことが多い。周年式典も、入社式も、決算発表に合わせた役員撮影も、当日その時間にしか存在しません。ところが個人1名との契約では、体調不良や事故で当日に来られなくなったとき、契約上の履行義務は残っても、実際に代わりを立てる仕組みがありません。
法務がここを気にするのは、損害賠償の話ではないからです。式典が一度きりであれば、賠償を取れても写真は戻ってきません。「代替体制をどう確保するか」を契約書と発注設計の両方で答えられるかが、実質的な審査ポイントになります。
担当者個人のつながりで選んだ相手だと、この点はさらに説明しづらくなります。選定の合理性を社内に示す難しさについては「知り合いのカメラマン」に頼むリスクを冷静に整理するに別途まとめています。
審査項目2|著作権の帰属:契約書に書かないと、撮った写真は会社のものにならない
撮影の直接契約で法務がもっとも赤字を入れるのが、著作権の条項です。ここは条文が明確なので、まず前提から整理します。
写真は著作権法上の著作物です。同法第2条第1項第1号は著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義し、第2条第4項は「写真の著作物」に写真の製作方法に類似する方法で表現される著作物を含むとしています。そして第2条第1項第2号は、著作者を「著作物を創作する者」としています。撮った人が著作者です。
権利は登録しなくても発生します。第17条第1項は著作者が著作者人格権と著作権を享有すると定め、第2項で「著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない」としています。シャッターが切られた瞬間に、その写真の権利はカメラマンに生じています。
職務著作(第15条第1項)は、外部委託の個人には通常及ばない
ここで社内から出やすいのが「うちが金を払って撮らせたのだから、会社の著作物では」という反論です。根拠として持ち出されるのが職務著作の規定ですが、条文をそのまま読むと当てはまりません。
第15条第1項は、法人等の発意に基づき「その法人等の業務に従事する者」が職務上作成する著作物で、法人等が自己の著作の名義で公表するものの著作者は、別段の定めがない限りその法人等とする、と定めています。鍵は「業務に従事する者」です。基本的には雇用関係にある人を指すと理解されており、外部に委託した個人カメラマンは通常これに当たらないと考えられます。当てはめは事案ごとに変わるため、判断は法務部門または顧問弁護士にご確認ください。
社員がスマートフォンで撮った写真と、外部のカメラマンが撮った写真は、権利の出発点が違う。法務が最初に確認しているのはこの一点です。
「著作権をすべて譲渡する」と書いても、翻案権は残ると推定される
譲渡の条項でもっとも見落とされるのが、第61条第2項です。第61条第1項は「著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる」としていますが、第2項はこう続きます。著作権を譲渡する契約において、第27条または第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定する。
第27条は翻訳権・翻案権等、第28条は二次的著作物の利用に関する原著作者の権利です。つまり「本件写真の著作権を甲に譲渡する」とだけ書いた契約書では、写真を加工して別の表現物にする権利が、カメラマン側に残っていると推定されます。トリミング、合成、イラスト化、動画への展開といった加工は、まさにここに関わります。
法務が「著作権の取り扱いが不明確です」と返してくるとき、その多くはこの特掲の欠落を指しています。条項に第27条・第28条を含む旨を明記するかどうかで、後から使える範囲が変わります。
著作者人格権は譲渡できない(第59条)ので、別の条項が要る
第59条は「著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない」と定めています。著作権をすべて譲り受けても、人格権は移りません。撮影で関係してくるのは3つです。
- 公表権(第18条第1項):まだ公表していない著作物を公衆に提供・提示する権利。ただし第18条第2項第1号は、未公表著作物の著作権を譲渡した場合、著作権の行使により公衆へ提供・提示することに同意したものと推定するとしています
- 氏名表示権(第19条第1項):著作者名を表示する、または表示しないこととする権利。第19条第3項は、利用の目的・態様に照らし創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り省略できるとしています
- 同一性保持権(第20条第1項):著作物とその題号の同一性を保持し、意に反する改変を受けない権利。第20条第2項第4号は、著作物の性質や利用の目的・態様に照らしやむを得ないと認められる改変を適用外としていますが、あらゆるトリミングや色調整が当然に許されるという意味ではありません
実務では、著作者人格権を行使しない旨の合意を条項として置くことが多くあります。ただしこの合意の有効性や範囲は論点を含むため、条項の文言は法務部門または顧問弁護士のレビューを前提にしてください。
譲渡ではなく許諾で受ける場合は、用途の書き方がそのまま使える範囲になる
著作権を譲り受けず、利用の許諾で受ける契約もあります。第63条第1項は著作権者が他人に利用を許諾できるとし、第2項は「許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において」利用できると定めています。範囲外の使い方は、許諾の外側です。
会社が撮った写真をどう使うかを条文の言葉に置き換えると、社内資料に焼き増しして配るのが第21条の複製、コーポレートサイトやSNSに載せるのが第23条第1項の公衆送信です。「採用サイト用に」とだけ書いた許諾で、翌年その写真を駅貼りポスターに使えるかは、条件の書き方次第になります。
また第63条第3項は、許諾を得た者の利用権は著作権者の承諾がなければ譲渡できないとしています。グループ会社に写真を回す運用があるなら、その点も条項に落としておく必要があります。
| 契約書に書く内容 | 関係する条文 | 書かなかった場合に起きうること |
|---|---|---|
| 著作権を譲渡する旨 | 第61条第1項 | 権利は撮影者に残り、会社は許諾の範囲でしか使えない |
| 第27条・第28条の権利を譲渡対象に特掲する | 第61条第2項 | 翻案権等は譲渡した者に留保されたと推定され、加工・二次展開の可否が争点になる |
| 著作者人格権を行使しない旨 | 第59条・第18条〜第20条 | クレジット表示や改変の可否が個別の申し出待ちになる |
| 利用の目的・媒体・期間・地域(許諾で受ける場合) | 第63条第2項 | 後から用途が増えたときに、範囲内かどうかを判断できない |
| グループ会社等への利用権の移転 | 第63条第3項 | 承諾なく譲渡できず、関係会社での利用が止まる |
| 動画・ムービーの取り扱いを別立てで書く | 第29条第1項 | 写真と同じ条項でまとめると、帰属の前提が食い違う |
最後の行は補足が要ります。第29条第1項は、映画の著作物の著作権は、著作者が映画製作者に対し製作に参加することを約束しているときは映画製作者に帰属する、と定めています。写真とは帰属のルールが違うということです。撮影と一緒に動画も頼む案件では、条項を分けて書くほうが安全です。
「買い取り」「二次利用可」は法律用語ではありません
見積書や発注書で日常的に使われている「買い取り」「二次利用可」「使用権」「著作権フリー」は、いずれも著作権法の条文に出てこない言い方です。撮る側と発注側で意味がずれたまま合意してしまう原因になります。譲渡なのか許諾なのか、譲渡なら第27条・第28条を含むのか、許諾なら媒体と期間はどこまでか。日常語ではなく、条文に対応する言葉で書いてください。
権利の書き方を曖昧にしたまま進んで、あとで使えなくなる事例は珍しくありません。納期やデータ受け渡しを含めた実際のつまずき方は撮影発注のトラブル事例集|納期・データ・著作権にまとめています。
審査項目3|フリーランス新法・取適法上の義務:取引先が1件増えるたびに管理が増える
個人カメラマンへの発注は、フリーランス新法の対象になります。正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」で、2024年11月1日に施行されました。この法律には資本金の基準も従業員数の基準も業種の限定もありません。会社の規模にかかわらず、個人に業務を委託した時点で義務が生じます。
撮影の発注で効いてくるのは主に次の規定です。第3条の取引条件の明示(期間の要件がなく、明示すべき事項は8つ)。第4条の報酬支払期日(給付を受領した日または役務の提供を受けた日から60日以内の、できる限り短い期間内)。第5条の禁止行為7類型(1か月以上の業務委託が要件)。あわせて第12条の募集情報の的確表示、第14条のハラスメント対策の体制整備もあります。第13条の育児介護等への配慮と第16条の中途解除等の事前予告(30日前)は、6か月以上の業務委託が要件です。命令に違反した場合の罰則は50万円以下の罰金とされています。
法務や購買が渋る理由は、義務そのものの重さではありません。件数です。個人カメラマン3名と直接契約すれば、明示の管理も支払期日の管理も3件分になります。撮影は年に何度も、部署ごとにばらばらに発生します。全社で見ると管理対象が静かに増えていきます。
もう1つ、法務が押さえている論点があります。下請法は2026年1月1日から「中小受託取引適正化法(取適法)」に改称・施行され、資本金基準に加えて従業員数基準(製造委託等300人、情報成果物作成委託・役務提供委託100人)が加わりました。手形払い等の禁止、協議に応じない一方的な代金決定の禁止、振込手数料を受託側に負担させることの禁止も追加されています。
ここで混同しやすいのが適用範囲です。取適法は発注事業者が自ら用いる役務を役務提供委託の対象外としていますが、フリーランス新法は自ら用いる役務の委託も対象です。自社サイト用・採用サイト用の撮影は、取適法の枠外であってもフリーランス新法はかかりうるということです。「うちは下請法の対象じゃないから」は、そのままでは通りません。
審査項目4|源泉徴収・インボイス・印紙:経理側で先に決めることがある
「経理と税務の確認が先です」という差し戻しは、多くの場合この3つを指しています。順に整理します。
源泉徴収は「印刷物に掲載するための写真」が政令に挙がっている
所得税法第204条第1項第1号は、原稿・さし絵・作曲・レコード吹込み・デザインの報酬、放送謝金、著作権の使用料、講演料、そしてこれらに類するもので政令で定める報酬・料金を、源泉徴収の対象として挙げています。その政令にあたる所得税法施行令第320条第1項に、「雑誌、広告その他の印刷物に掲載するための写真の報酬若しくは料金」が明記されています。
条文から確実に言えるのはここまでです。会社案内やカタログのような印刷物に載せる写真の報酬は政令に挙がっている。一方で、コーポレートサイトや採用サイトにだけ載せる撮影が同じ扱いになるかは、条文から一義には読み取れません。印刷物向けかどうかで扱いが分かれうる部分なので、顧問税理士にご確認ください。税率や納付の具体的な手順もあわせて確認いただくのが確実です。
条文から言い切れることが2つあります。1つは、第204条第1項が「居住者に対し」支払う報酬を対象としているため、法人への支払いは源泉徴収義務の対象外だという点。ひとり法人であっても法人は法人です。もう1つは、第204条第2項第2号により、給与等について源泉徴収して納付すべき個人以外の個人から支払われるものには適用しないとされている点です。
個人と直接契約すると源泉徴収の判定と処理が発生し、法人経由なら発生しない。この差は、経理から見ると小さくありません。
インボイス:登録の有無を発注前に確認する
適格請求書発行事業者に登録しているかどうかで、仕入税額控除の扱いが変わります。個人カメラマンには免税事業者として活動している方もいるため、発注前の確認事項になります。ここは金額の交渉にも直結するので、契約条件を詰める段階で押さえてください。制度側の詳細はインボイス制度で個人カメラマンへの発注はどう変わったかで整理しています。
印紙:請負に当たれば第2号文書として課税されうる
撮影の業務委託契約書が請負に関する契約書(第2号文書)に当たる場合、契約金額に応じた印紙が必要になります。国税庁は第2号文書の例として、工事請負契約書、工事注文請書、物品加工注文請書、広告契約書、会計監査契約書、プロ野球選手や映画俳優などの専属契約書を挙げています。税額は次のとおりです。
| 契約金額(第2号文書・請負に関する契約書) | 印紙税額 |
|---|---|
| 1万円以上100万円以下 | 200円 |
| 100万円超200万円以下 | 400円 |
| 200万円超300万円以下 | 1,000円 |
| 300万円超500万円以下 | 2,000円 |
撮影の契約書がつねに第2号文書だと決まっているわけではありません。文書の性質によって判定が変わり、営業者間で継続する複数の取引の基本的な取引条件を定めるものは、第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当することがあります。自社の雛形がどちらに当たるかは、顧問税理士にご確認ください。
見積書の段階でこれらが読めるようになると、経理への説明が一気に楽になります。見積書のどこを見るかは撮影見積書の読み方|どこを見れば適正か分かるかに整理しました。
審査項目5|労働者性:現場で細かく指示するほど論点になりうる
「指揮命令の実態が出ないようにしてください」という指摘は、労働者性の懸念から出ています。業務委託の形をとっていても、働き方の実態が労働者に近ければ論点になりうる、という考え方です。
実務上の判断枠組みとして用いられているのが、厚生労働省の労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(昭和60年12月19日)です。この報告は「使用従属性」を軸に、(1)指揮監督下の労働であるか、(2)報酬が労務の対償として支払われているか、の2点を見ます。これだけでは判断が難しい場合に、専属性の程度などの要素も加えて総合的に判断するとされています。
撮影の現場は、放っておくと指示が細かくなりがちです。何時にどこに来て、この順番で撮って、この設定で、この構図で。段取りとしては自然な会話でも、それが恒常化し、勤務時間の管理に近づいていくと、実態としてどう評価されるかという話になります。とくに同じカメラマンに毎週・毎月入ってもらうような運用では、法務が気にする度合いが上がります。
ここは断定できる領域ではありません。個々の事情の総合判断であり、指示が細かい撮影が即座に何かに当たるという話でもない。ただ、契約の形と現場の運び方が食い違っていないかは、稟議の前に一度見ておく価値があります。
なお、労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号、いわゆる37号告示)は、労働者を雇用する事業主を対象とした基準です。従業員のいない個人カメラマン1名への発注は枠組みが異なります。発注先が従業員を雇っている場合には、この区分が問題になりうる、という理解にとどめてください。
審査項目6|秘密保持と情報管理:撮影は社内に人を入れる行為でもある
撮影は、外部の人が執務フロアに入り、社員の顔を撮り、そのデータを社外に持ち出す業務です。情報セキュリティの観点では、業務委託のなかでも管理項目が多い部類に入ります。
オフィス風景の撮影では、背景にホワイトボードの記載、モニターに映った画面、机上の書類が写り込みます。開発中の製品、未発表の企画、取引先名。撮ってしまってから気づくことも多い。NDAを締結していれば防げるわけではありませんが、締結していなければそもそも約束がない状態です。
データの管理も審査対象です。撮影データがどこに保管され、いつ消され、誰がアクセスできるのか。個人カメラマンの場合、保管先は個人所有のPCと外付けディスク、受け渡しは無料のファイル転送サービス、というケースがあります。責める話ではなく、社内の情報管理規程と突き合わせたときに、規程側が想定していない形になっているという話です。次の点は契約書か覚書に落としておいてください。
- 撮影データの保管場所と、保管を許容する期間
- 納品後の消去義務と、消去の報告方法
- 受け渡しに使うサービスと、リンクの有効期限・パスワードの取り扱い
- 実績としてポートフォリオに掲載する場合の可否と、事前承諾の手順
- 再委託(アシスタント・レタッチャーへの外注)の可否と、再委託先への義務の承継
- 入館時の手続き、立入可能なエリア、撮影禁止エリアの指定
4番目は現場でもめやすい項目です。カメラマンにとって作例の掲載は次の仕事につながる大切な要素で、掲載を前提に考えている方もいます。撮影後に「載せないでほしい」と伝えるより、発注時に条件を決めておくほうが、双方にとって楽です。
社員の顔が写る写真には、肖像権への配慮も要ります。肖像権は著作権法のように条文で定義された権利ではなく、人格的な利益として実務上扱われているものです。著作権の処理が済んでいても、被写体になった社員本人の同意が別に必要になる、という整理をしておくと社内の説明がしやすくなります。退職者の写真をいつまで掲載するかも、同じ枠で決めておく項目です。
では個人カメラマンとの直接契約は常にNGなのか|通るケースと、通すための条件
常にNGということはありません。ここまでの6項目に答えを用意できていれば、直接契約は十分に合理的な選択です。実際、条件がそろっているなら直接契約のほうが良い場面もあります。
元カメラマンとしての実感を言えば、いちばん良い写真が出るのは、撮る人が会社のことをよく知っているときです。何年も同じ会社を撮っているカメラマンは、その会社の空気を分かっている。それは代えがたい価値です。私が窓口業を選んだのは直接契約が悪いからではなく、その関係を維持できる会社ばかりではないからです。
| 観点 | 直接契約が通りやすい条件 | 止まりやすい条件 |
|---|---|---|
| 契約の管理体制 | 個人事業主との業務委託契約の雛形が社内にあり、契約管理の担当が決まっている | 雛形がなく、カメラマン側の1枚見積りだけで進めようとしている |
| 撮影の性質 | 日程を動かせる、撮り直しが効く(商品撮影、通常のプロフィール撮影など) | その日その時間しかない(周年式典、入社式、決算関連の一発勝負) |
| 取引の継続性 | 年間を通じて発注があり、契約を1本結べば運用が回る | 部署ごと・案件ごとに単発で、都度新規取引先が増える |
| 写真の用途 | 用途が固まっていて、契約書に媒体と期間を書き切れる | 「あとで何に使うか分からない」まま発注しようとしている |
| 情報の機微 | 撮影場所が公開エリアで、写り込みの管理がしやすい | 執務フロア・開発現場・顧客情報のある場所での撮影 |
| 経理の体制 | 源泉徴収の判定と処理を回せる体制がある | 個人への支払い自体が例外処理になっている |
左の列に多く当てはまるなら、直接契約は現実的です。そのうえで、契約書に次の内容が入っているかを確認してください。稟議に添える資料としても使えます。
- 著作権の譲渡または利用許諾のいずれかを明記し、譲渡なら第27条・第28条の権利を特掲する
- 著作者人格権を行使しない旨の条項を置き、文言は法務のレビューを通す
- 写真の用途・媒体・期間・地域を、日常語ではなく特定できる書き方で記載する
- フリーランス新法第3条の8事項が埋まる発注書フォーマットを用意する
- 支払期日を、役務の提供を受けた日または受領日を起点に、特定できる日付で定める
- 当日に撮影できなくなった場合の連絡手順と、代替の考え方を決めておく
- NDAを撮影日より前に締結し、データの保管期間・消去・再委託の可否を書く
- 実績掲載の可否と、事前承諾の手順を決める
- 源泉徴収の要否とインボイス登録の有無を、発注前に経理と確認する
- 被写体になる社員の同意の取り方と、退職後の掲載方針を決める
この10項目を埋めた資料を持って行けば、「リスクがあるので」で止まる確率は下がります。差し戻しの多くは、判断材料が足りないことによるものだからです。金額そのものの説明の組み立て方は社内の稟議を通すための「撮影費用」の説明の仕方に分けて書いています。
窓口を1社に寄せると、法務の審査項目はどう変わるか
法人1社を窓口にすると、審査の対象が変わります。何が消えるわけでもありませんが、6項目のうちいくつかが会社対会社の話に整理されます。
与信と反社チェックは1社分になり、以後の撮影は既存取引先への発注として処理されます。源泉徴収は、所得税法第204条第1項が「居住者に対し」支払う報酬を対象としているため、法人への支払いでは義務の対象外です。契約書もNDAも1本で足り、部署ごとに個人と結び直す必要がなくなります。当日に撮影できなくなった場合の代替も、窓口側の責任範囲として書けます。
一方で、消えない項目もあります。著作権の帰属は相手が法人でも条項を書かなければ整理されません。撮影データの管理も、機微な場所での撮影であれば内容を詰める必要があります。窓口が1社になっても、契約書のレビューそのものは残ります。
私たち日本プロカメラマン手配は、企業専門のカメラマン手配サービスです。運営は株式会社ファーストブレイク(横浜市中区)、代表の私・宮崎大地は元カメラマンで、2012年の創業から法人とのお取引は300社を超えました。全国の登録カメラマンから用途に合う人を選んでアサインし、打ち合わせ、当日の進行のディレクション、納品までを窓口として引き受けています。業務委託契約とNDAの標準雛形(著作権譲渡・直接取引禁止・代替体制協力の条項を含む)があり、内容は貴社の法務レビューを前提としてお出ししています。インボイスは登録番号 T2020001106718 で対応しています。
料金はカット数ではなく拘束時間制です。ハーフ(半日・4時間枠)が60,000円+税=66,000円、フル(1日・8時間枠)が120,000円+税=132,000円、延長は30分ごと7,800円+税=8,580円(30分単位で切り上げ)。標準機材と商用利用権は基本料金に含まれ、諸経費は交通費もスタジオ代も実費のパススルーで当社の上乗せはありません。見積りの段階で総額を明示するので、撮影後に別途の請求が出ることはありません。
窓口の形そのものを比べたい場合は、撮影会社と個人カメラマンとエージェント、どう違うのかで三者の役割を整理しています。
この記事の次に読むと、判断が一段進みます
審査項目の全体像がつかめたら、次は発注そのものの設計です。
- 発注前に決めておく条件を一気に洗い出すとき:撮影を外注する前に確認すべき20のこと
- 権利や納期の具体的なつまずき方を知りたいとき:撮影発注のトラブル事例集|納期・データ・著作権
- 提示された金額の妥当性を判断するとき:撮影見積書の読み方|どこを見れば適正か分かるか
- 消費税側の制度対応もあわせて整理するとき:インボイス制度で個人カメラマンへの発注はどう変わったか
契約書の整備から始めると撮影日に間に合わない、という段階でしたら、窓口を1社にまとめる形もご検討ください。撮影日と場所、撮影する人数、写真の用途をお知らせいただければ、どの枠が必要か、諸経費がいくらになるかまで書き出してお見積りをお出しします。契約書とNDAの雛形も、貴社の法務レビュー用にあわせてお送りできます。
よくある質問
撮影費を払っているのだから、写真の著作権は自動的に会社のものになりませんか
なりません。著作権法第2条第1項第2号は著作者を「著作物を創作する者」と定めており、写真を撮ったカメラマンが著作者です。第17条第2項により権利の享有に登録などの方式は不要で、撮影した時点で権利が生じます。法人が著作者になる職務著作の規定(第15条第1項)は「その法人等の業務に従事する者」が作成した著作物が対象で、外部委託した個人カメラマンは通常これに当たらないと考えられます。会社が使える範囲は契約書で定めることになります。当てはめは法務部門または顧問弁護士にご確認ください。
契約書に「著作権をすべて譲渡する」と書けば、写真を自由に加工できますか
その書き方だけでは足りない可能性があります。著作権法第61条第2項は、譲渡契約で第27条(翻訳権、翻案権等)または第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定する、と定めています。加工や二次展開を想定するなら、この2条を含む旨を条項に明記してください。あわせて第59条により著作者人格権は譲渡できないため、不行使の合意を別に置くのが実務です。文言は法務部門または顧問弁護士のレビューを前提にしてください。
個人カメラマンへの撮影料は源泉徴収が必要ですか
用途によって判断が分かれるため、顧問税理士にご確認ください。所得税法第204条第1項第1号を受けた同法施行令第320条第1項には、「雑誌、広告その他の印刷物に掲載するための写真の報酬若しくは料金」が源泉徴収の対象として挙げられています。会社案内やカタログ向けの撮影はここに読めますが、Webサイトにだけ掲載する撮影が同じ扱いになるかは条文から一義には読み取れません。なお第204条第1項は「居住者に対し」支払う報酬を対象としているため、法人への支払いは源泉徴収義務の対象外です。
単発1回の撮影でも、フリーランス新法の義務はかかりますか
かかります。取引条件の明示義務(第3条)と報酬支払期日の義務(第4条)には期間の要件がなく、単発1回の発注でも適用されます。第4条の支払期日は、給付を受領した日または役務の提供を受けた日から起算して60日以内の、できる限り短い期間内に定めます。買いたたきや報酬の減額を含む禁止行為7類型(第5条)は、1か月以上の業務委託が要件です。フリーランス新法には資本金基準も従業員数基準も業種の限定もないため、会社の規模を理由に対象外にはなりません。
撮影の業務委託契約書に収入印紙は必要ですか
請負に関する契約書(第2号文書)に当たる場合は必要です。国税庁が示す第2号文書の税額は、契約金額1万円以上100万円以下が200円、100万円超200万円以下が400円、200万円超300万円以下が1,000円、300万円超500万円以下が2,000円です。ただし撮影の契約書がつねに第2号文書になるわけではなく、営業者間で継続する複数の取引の基本的な取引条件を定めるものは第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当することがあります。自社の雛形がどちらに当たるかは顧問税理士にご確認ください。
